2018/11/19
社員の副業(兼業)を認める企業が増えている。長年、終身雇用と長時間労働を前提に「本業がおろそかになる」などの懸念から、ほとんどの企業が禁じてきた。しかし、副業は多様な経験、知識を持つ人材の確保につながるとの考え方が企業にも広がってきたことが背景にある。
ソフトウエア開発会社の「サイボウズ」(東京)人事部マネジャーの松川隆さん(46)は昨年から、副業で都内のデザイン関連商社の人事部にも勤務している。サイボウズへの出社を週5日から4日に減らし、1日は商社に出社。それぞれの社員教育などに当たる。商社では企業風土を変えるためのアドバイザーという役割で、1年ごとの契約だ。
大学卒業後、銀行や広告代理店勤務、テニススクールの起業を経て2012年にサイボウズに転職。同社の顧客で、学生時代からの友人でもある商社の社長から請われた。
サイボウズでは出社日数などで社員の希望をできる限り尊重し、副業も12年から原則自由。松川さんは「自分の価値を高められる」と引き受けた。商社では経営会議や採用面接などにも加わり「他社の社員とじかに接し、意識が変わっていく姿を見ることができるのは貴重な経験」。サイボウズでは企業向けの働き方の研修やコンサルタントもしており、本業への好影響を感じている。勤務日数や業務を少なくした分、本業の給与は減ったが、副業と合わせ収入全体は増えた。
同社で継続的に副業をしているのは、正社員の一割ほどという。業種はさまざまで、カレー店オーナーやカメラマンのほか、動画配信サイトに動画をアップしている人もいる。昨年からは同社を副業先とする人を対象とした採用制度も作った。同社広報の大川将司さん(40)は「多様なキャリアの人材がいることは企業の強み」と話す。
社員の兼業が会社の新事業につながった例もある。三重県多気町の万協製薬は3年前から、契約社員の田中満さん(39)が経営するキックボクシング教室と共同で、個人向けのトレーニング事業に取り組む。
田中さんは火曜日を除く平日日中の7時間、工場の製造ラインで働きながら、伊勢市など県内五カ所でキックボクシングの教室を開いている。個人トレーニングは万協からの提案で、会場を万協が提供。田中さんは健康維持のための体力作りを指導し、筋肉を冷やすスプレーなど万協の製品を会員に紹介している。万協の松浦信男社長(56)は「(田中さんには)経営者の視点で意見も言ってもらえる」と話す。
国も「労働者のキャリア形成を支援する」などとして副業を後押し。これまで企業に示す就業規則のひな型では原則認めてこなかったが、今年1月の改正で原則容認に転換。副業を促すガイドラインも作った。
リクルートキャリアが9月に約2千社を対象に実施した調査では、副業を推進・容認していると答えた企業は約29%で、昨年の調査よりも約6ポイント増えた。
◆過重労働の恐れ なお慎重意見も
一方、副業を禁止する社からは、その理由として「長時間労働、過重労働を助長する」(約45%)、「労働時間の管理・把握が困難」(約38%)、「労働災害が起きたら、本業との区別が困難」(約23%)などの意見が上がった。
リクルートワークス研究所の萩原牧子主任研究員(43)は「副業により個人の能力を社会で共有できる」とした上で「本業の勤務先は副業が深夜勤務だったり、重労働になったりしていないか、内容を把握した上で認めることが必要」と話す。
(山本真嗣)
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