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【医療】過労死防ぐ活動を継続/かゆかわクリニック(名古屋市中区)

2018/09/25

院長・精神科医
粥川裕平さん(69)

 精神科医の立場から、睡眠障害の研究や職場のメンタルヘルス、過労死などの問題に取り組んできた。名古屋工業大保健センター長を定年退職した後、65歳で開業。繁華街の商業ビル内のクリニックに、うつ病の青少年から認知症の高齢者までさまざまな患者が訪れる。

 診察時間は長くはないが、生活状況を丁寧に聞いている。過眠症の40代の女性は仕事で重責を担い、仕事から離れても心は休まらないと訴えた。「燃え尽きそうな仕事ぶり。テンションを80%ぐらいに下げて、90分働いたら休憩を」。具体的な助言を欠かさないのは「患者と協力して病気に立ち向かうのが医師」との信念から。症状が重ければ「重い」と率直に言う。

 共感の原点は幼少時代にさかのぼる。岐阜県下呂市(旧萩原町)の下宿屋で育った。人見知りで幼稚園に行けず、地元の映画館で毎日を過ごした。小学校も泣きながら登校していた。川で転んで膝を15針も縫う大けがをした際、外科医だった叔父に治療してもらい、医師の仕事に興味を持った。名古屋大医学部に進学。高校、大学と哲学、心理学などの書を読む中、精神医学に初めて触れ、未解明な部分が多い心の病に関心を持ち、治療に携わろうと決めた。

 研修は当時、各診療科を回る方法。救急にいた時、決まって午前4時すぎに受診するぜんそく患者がいた。当直で疲れ果てて眠る時間帯。「どうして昼間に受診しないのか」と聞くと、「昼間は工場で働いている。家に帰って眠ると明け方に発作が起きるんです」と教えられ、ひたすら謝った。浅い眠りの時に発作は起こりやすく、夜間睡眠中に症状が出る病気はほかにもある。この出来事が睡眠に関心を持つきっかけになった。

 10年在籍した精神科の病院では患者が自ら命を絶つことがたびたびあった。自殺を防ぎたいとの思いから、過労死について研究する弁護士らのグループに参加。労災認定をめぐる訴訟で意見書を書くなど、社会的な活動にも積極的にかかわる。

 「長時間労働やストレスが不眠につながり、うつ病を発症させ、自殺のリスクも高める。働き方改革と言うが、働く人の健康がむしばまれる状況は変わっていない」。これまでの取り組みを今後も続けることで、社会に貢献したいと考えている。

 映画好きは今も。週に3~4作品見て、評論を書いたり、患者の症状に合わせて作品を薦めたりしている。(小中寿美)

「努力はしない」「ほどほどに」と患者にアドバイスする粥川裕平さん
「努力はしない」「ほどほどに」と患者にアドバイスする粥川裕平さん