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【社会】就活指針廃止の提言に波紋 

2018/09/05

学生/「研究に影響」「接点早く歓迎」
企業/「自由度増す」「人材獲得激化」

 経団連の中西宏明会長が採用活動の指針を2021年に卒業する学生から廃止する考えを示し、就職を控えた学生を取り巻く状況が大きく変わる可能性が出てきた。対象は、20年に就職活動をする今の大学2年生から。中部地方では、学生や大学担当者の間で戸惑いや歓迎の声が交錯し、企業からは人材獲得競争の激化への懸念も聞かれた。

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 名古屋大法学部2年の堀井さん(20)は「解禁日がなくなると、研究など学生生活に影響が出るかもしれない」と不安がる。留学も考えているというが「帰国した後、採用の仕組みが変わっていたらと思うと怖い。ある程度、解禁日を設けるなど規制してほしい」。

 名古屋工業大2年の磯合さん(20)は「企業との接点を早く持てるのはメリットだと思う」。大学の部活動で企業を訪問する機会が多くあり、「海外赴任経験のある企業の人からは『日本の学生は奥手だね』と言われる。もっと貪欲に企業と接して、良い会社を選んでいくのもいいのでは」と前向きに捉える。

 名古屋大法学部2年の門前浩太さん(21)は「1年生の時から就職を意識して、インターンシップ(就業体験)を経験する学生も少なくなく、早まるのも当然の流れのように感じる」と冷静に受け止めている。

 経団連は就職活動の学業への影響を考え、15年から企業の採用活動の開始時期を繰り下げる指針を表明。しかし16年には、4年生の8月だった選考の解禁を6月に前倒しした経緯がある。

 愛知県立大(長久手市)キャリア支援室の成瀬雄一郎さんは「学生は先輩から就職活動経験を引き継いで自身の活動に役立てている。就活ルールが頻繁に変わると戸惑うだろう」と心配する。就活時期は学内の試験や実習と重なるため「ルールの撤廃で就活時期が早まったり長引いたりすると、どちらを優先すべきか迷う学生も出てくる」とも話している。

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 名古屋鉄道は「『就活ルール』が廃止された場合は学業に配慮しながら柔軟に対応する必要があると考える」とコメント。このほかの企業も「企業側の自由度が増す半面、学生の就職活動が長期化する懸念がある」(東邦ガスの広報担当者)、「学生の学業への影響を考慮し、採用方法・時期などについて十分な対応を検討していきたい」(トヨタ自動車の広報担当者)など、学生の負担を減らす工夫を考えていく姿勢を示した。

 一方、自動車業界では、エンジニアになる理系人材の奪い合いになっており、トヨタ系部品メーカーの幹部は「大企業が学生の青田買いを進めれば、規模の小さい会社は優秀な人材を採れなくなる」と話した。

 名古屋銀行と十六銀行(岐阜市)、百五銀行(津市)は合同の就職説明会を開いているが、関係者は「名古屋では学生がすぐに集まってくれるが、さまざまな業界と競合している東京ではなかなか集まらない。人材の取り合いがさらに激化する可能性がある」と警戒を示した。

 中小企業の関係者からは、就活ルールが大企業の都合で決まることへの反発の声も聞かれた。名古屋市内の食品メーカーは「これまでも大手企業は(就職協定を)守っておらず、ルールは形骸化していた」と冷ややか。人手不足が強まる中、社内からは採用活動の開始を早めるべきだとの声が上がっているという。