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【暮らし】<ともに> 知的障害者 7割の会社(上)

2018/06/13

 社員の7割超が知的障害者という会社がある。板書の際に粉が飛びにくいチョークを製造販売する日本理化学工業(川崎市)。58年前から知的障害者の雇用を続ける一方で、学校で使うチョーク市場の国内シェア50%以上を誇る。「福祉」としてではなく「主戦力」として障害者たちが働く現場を訪ねた。

 ◇ ◇ ◇

 トレーには、3本ずつ束にした長さ数10センチの青いチョークが並ぶ。成型したてのチョークはまだ軟らかい。知的障害がある男性が先が少し広がったフォークを刺して、トレーの端からはみ出したチョークを取り除く。五束ずつ載ったトレーが次々に運ばれてくるが、男性は手際よくチョークの長さをきっちりそろえる。

 ここは、同社の中核を担う川崎工場。粉末の飛散が少ない「ダストレスチョーク」を一日13万本製造し出荷する。製造には成型、切断、乾燥、箱詰めなど、主に6工程があるが、いずれのラインも受け持っているのは障害がある社員たちだ。20人ほどがラインを担う。

 同社は1960年から、継続して障害者を雇用している。4月末現在、川崎工場を含む本社と北海道の美唄(びばい)工場で計86人いる社員のうち、七割超に当たる64人の社員に知的障害がある。このうち26人は重度。障害者が働く事業所には、厳しい経営となっているところが少なくないが、同社は学校用のチョークで国内シェアの50%以上を誇るトップメーカーだ。

 文字や数字が読めない人もおり、初めは色や写真などを頼りに手順を覚える。全工程の最初となるのが、炭酸カルシウムやホタテの貝殻の粉などの原料を混ぜ合わせる作業。計量は原料の入ったバケツと、必要な量と同じ重さにした分銅を使う。バケツと分銅の色をそろえ「青いバケツから原料を取り出し、同じ青色の重りをつり下げて、釣り合えばOK」という具合だ。この手順は、信号に従って障害者の社員が通行するのをヒントに、作業に色分けを取り入れるとやりやすいのではと、発案された。入社以来15年間、材料を混ぜる工程を担当する竹内章浩さん(33)は「自分の作ったものが製品になると、とてもうれしい」と笑顔を見せた。

 時計が読めず、必要な時間、混ぜ合わせたのかが分からない社員は、砂時計を使って作業する。ゆがみや欠損など不良品を見つけるのも、ラインに入る人の役割だ。壁には完成品と不良品を並べた見本の写真が張ってあり、チョークを1本1本照らし合わせる。不良品は「×」のケース、判断が付かない場合は「△」のケースに入れ、健常者の社員が再検品する。

 何十年も同じ工程を担当している熟練の社員も多い。慣れてくると、写真や特別な機器がなくても作業できるようになる。障害がある人が業務改善を提案することもある。トレーからはみ出したチョークを取り除くフォークは、障害がある社員の発案で、より作業しやすくなるように先を広げた。

 営業部広報担当で障害のある社員たちの支援役となっている佐藤亜紀子さん(43)は、黙々と働くベテランたちを頼もしそうに見つめる。「障害で言葉を話せなくても、積み上げてきた技術と仕事に対する姿勢で、後輩たちを引っ張ってくれています」

 (花井康子)

余分なチョークをフォークで突き刺して取り除く社員=川崎市で
余分なチョークをフォークで突き刺して取り除く社員=川崎市で