2009/01/22
ぴったり中敷き 技光る
さっきまでブカブカだった靴が、ぴったりと足に吸い付くように。まるで魔法だ。
豊橋市駅前大通の水上ビル、革靴を求めて入店した靴屋での話。慣れた手つきで足の大きさを測り、中敷きを丁寧に削って入れる。その技に興味がわき、後日、私の靴選びを実験台にして学んでみた。
店は、島田昌典さん(65)と妻琢子さん(63)が三十五年ほど前から夫婦で経営しているサンワ靴店。昌典さんの父の代には注文靴を作っていた。現在は革靴やスニーカー、婦人靴など、メーカー製品を扱っている。
「ズボンには丈と胴回りがあるのに、靴には長さしかない。靴選びには足の厚みも考えないといけない」というのが昌典さんの持論。一般的には、足の長さと足の甲の周囲の長さは同じぐらいだが、形は人によって千差万別。私の場合、長さが二十六センチなのに甲の周りは二十四センチしかなかった。
自分のサイズを踏まえ靴を選んでみる。太さは靴によって違うというが、靴の棚の前に立つとどれも同じに見える。「履いて確かめて」とアドバイスを受けても太さが分からない。見かねた昌典さんは、甲の部分を親指で何げなく押し「(靴の甲の高さは)四ミリ大きいですね」と言い当てた。
比較的形が合う靴を選び、中敷きを作る作業に。二-六ミリのコルク板やスポンジ、中敷きを削ったものを重ねて、足の形にフィットさせる。夫婦が三十年前から試行錯誤してきた技術だ。
厚さ三ミリのコルク板の表面を、ノミのような小刀でなだらかにする作業に挑戦。思いのほかコルクが堅い。力を込めると削りすぎ、いびつな形になってしまった。左右で足の大きさが違うため、右足の方にだけ一ミリほどの薄布を入れて、靴は完成した。
店には「また頼む」と何十年も通う常連さんが全国にいる。「同じ靴をはき続けてくれる人もいます。正直言って、もうかりませんけど」と笑う昌典さん。「ただ靴選びで失敗してほしくない。靴屋として当たり前のことをやってるだけなんですがね」。長年培った技術と客との信頼関係に、自負がにじんでいた。(井口健太)
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【メモ】靴屋になるために特別な資格は必要ない。同店の売り上げは月40万円ほどだが、もうけは店の規模による。衣料品店に比べると半分ほどで、靴への熱意が必要とのこと。
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