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【社会】病児保育 自宅で 岩倉のNPO 「訪問型」試行

2017/01/31

 愛知県内の弁護士や保育関係者らでつくるNPO法人「はんどいんはんど」(同県岩倉市)は2月から、急な発熱などで保育園などに行けない子どもの自宅に子育て経験のある保育スタッフを派遣する「訪問型病児保育」を同市内で試験的に始める。病児保育の受け皿が不足する中、共働き夫婦らに選択肢を提供する狙い。訪問型に特化した取り組みは、中部地方では珍しいという。(鈴木あや)

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 病児保育は、親が仕事などで不在時に病気の子を預かるサービス。小児科医院などに併設され、緊急時には医師や看護師が対応する施設型が中心だが、数が少なく、受け入れ時間や定員が限られる上、親が送迎できない場合は利用できない。民間のベビーシッターは、緊急時の医療対応やスタッフの資格の有無などで業者によって差がある。

 これに対し、岩倉のNPOは急な派遣依頼も前日夜まで受け付け、平日午前7時半~午後7時の間、スタッフが親の作り置いた食事を子どもに食べさせたり、処方薬を飲ませたりする。病院への受診代行もする。

 スタッフは子育て経験が6年以上ある人を募り、乳幼児の呼吸のチェック法や風邪の対処法などを座学と実地で研修する。近隣の医療機関と提携し、緊急時の往診などに対応してもらう方針。NPOとして事故時の賠償責任保険にも入っているという。

 現在、保育スタッフは2人で、岩倉市内の6カ月~小学6年生を対象に3世帯で実施する。月会費3000円で毎月1回までのスタッフ派遣は無料となり、2回目以降は1時間あたり1200円かかる。今後もスタッフを募り、2017年度中の本格稼働を目指す。

 夫婦ともに弁護士で、長女(10)と長男(5つ)を育てる名古屋市東区の原武之さん(39)が「病児保育施設が近くになく、仕事が休めないときに困る」と悩み、首都圏で訪問型を展開するNPO法人に着目。岩倉市で私立保育園を運営する知人の広中大雄さん(36)と相談し、NPOを立ち上げた。

 原さんは「模索しながら、訪問型病児保育の愛知モデルを目指したい」と話している。問い合わせは、はんどいんはんど=電080(4520)2015=へ。

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◆共働き増、足りぬ受け皿
◆難しい経営、急変時対応課題

 共働き世帯の増加などで病児保育のニーズは高まっているが、ほとんどの自治体で受け皿が足りていないのが現状だ。

 厚生労働省が把握している病児・病後児保育施設などの数は2015年度、計2226カ所(うち訪問型は9カ所)。全国に約2万6000カ所ある保育所や認定こども園などの数の1割にも満たない。

 同省は19年度に病児保育などで延べ150万人の子どもを受け入れ可能な体制づくりを目指すが、15年度の受け入れ実績は約61万人。感染症などの流行時期にニーズが集中する半面、閑散期もあって経営の難しい点が課題という。

 東京都のNPO法人「フローレンス」は05年から訪問型の病児保育を始め、利用しない月も会費を得る共済型で運営。初年度は38人だった利用者は16年度に約5000人まで増え、抽選で入会者を絞っているという。

 名古屋市小児科医会理事で小児科医の荻野高敏医師は「私のクリニックでも病児保育に取り組んでいる。多くの自治体が補助金を出して拡充を促しているが、人件費や保育士不足がネックになりニーズに応え切れていない」と説明。「専門知識のないスタッフでは、預かった子どもの容体が急変したときの対応に不安が残る。万が一の時の責任をどう負うかも課題だ。活動には専門家とのノウハウの共有が必要だ」と話す。

 日本福祉大の中村強士准教授(児童福祉)は「受け皿が足りないから、多少リスクがあっても使うという認可外保育所と似ている。親たちがそこまで追い詰められているという表れかもしれない」と話した。

訪問型病児保育の活動に向け打ち合わせをする原武之さん(左から2人目)、広中大雄さん(同3人目)ら=愛知県岩倉市で
訪問型病児保育の活動に向け打ち合わせをする原武之さん(左から2人目)、広中大雄さん(同3人目)ら=愛知県岩倉市で