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【大学生】伊藤忠前会長 丹羽宇一郎さんに聞く 就活 大企業に執着せず、気概を

2016/03/15

世界で競える力付けて

 どのように就活に臨んだらいいのか悩んでいる人はいませんか? 今年は選考が6月から始まり超短期決戦といわれるが、まずは、企業の第一線で活躍した先輩の話に耳を傾けよう。大手商社「伊藤忠商事」の社長と会長を務めた丹羽宇一郎さん(77)に聞いた。(藤原啓嗣)

◇ ◇ ◇

 -合同説明会が各地で開かれていますが。

 企業の言うことを信じすぎると、危ない。良いことばかりの会社はないから、入社して失望する。採用担当者の言うことをうのみにしないで。まずは、どこの人事担当者も学生に入りたいと思わせるようなことばかり言っていることを感じよう。そうすれば、冷静になれるはず。

 -何を聞くべきですか。

 毎朝何時に起きて、残業は週に何日どれくらいするか、ずっと机に座って仕事をするのか、海外に出張は行くのか、生活に根差した話を聞こう。自分の将来を現実的に考えられる。

 -丹羽さんは一九六〇年の日米安保闘争で学生運動に参加した経験がありますが。

 正義感から参加したんだよ。五八年に岸信介政権が警官の権限を拡大する警察官職務執行法(警職法)の改正案を国会に提出した。当時「デートもできない警職法」と呼ばれていた。警官が、デートしている恋人たちが何かをたくらんでいるのではないかと尋問できるような法律だった。社会人は仕事があるから、学生が立ち上がった。

 -就活の心配はしなかったのですか。

 不安だった。理由は分からないが、学生運動をしていた先輩が内定取り消しになった。落ちてもすぐ結果が分かるように、一番早く採用試験を始めた伊藤忠を受けた。受かった時点で就活はやめた。落ちたら大学院へ進むか、司法試験を受けようと考えていた。

 -新入社員時代は?

 最初は書類の清書や計算ばかり。大学で学んだ法律については何も聞かれない。仕事をしたから急に立派になるわけじゃない。雑務をたくさんこなすうちに、仕事の流れが見えてきた。社長になるとかも考えていなかった。信用されるために、清く正しく生きたから、任されたのかな。

 -就活では経団連の時期変更が問題に。

 私たちのころと同じように夏休みを控えた七月一日解禁で良いのでは。企業に無駄な時間を使わせてはいかん。学生も大企業に執着しないで。五十年間業界のナンバーワンであり続けた会社なんて少ない。中小に入って、自分が会社を大きくしてやるという気概がほしい。

 -今の若者に求めることは。

 今やりたいと思ったことは先延ばしせずに今やれ、と言いたい。世界中のどこに働きに行っても競争ばかり。ここでだめだったら、あきらめて次に行こうではなく、自分が生きると決めた場所に踏みとどまり、自分を磨こう。世界で競える力を身に付けてほしい。

    ◇

地味な仕事にもやりがい

 丹羽さんは入社後、地味な仕事ばかりだったが、それが後で役に立ったと語る。就活の合同説明会では、地道な仕事に大切なことや働く意義があると訴える企業もあった。

 愛知県常滑市の中部国際空港(セントレア)を運営する中部国際空港会社は、今月上旬の合同説明会に出展。学生が六十人以上集まり、立ち見も出るほど人気な企業の一つだ。

 説明する人事グループの太田亮史さん(28)は「チェックインカウンターは航空会社の仕事で、出入国管理は国の管轄。われわれは客から見えない所で仕事する」と強調した。

 セントレアは有名だが、管理する同社の仕事は学生にはほとんど知られていない。同社は空港の土台を支えている。施設管理のほか、新規就航や増便に向けた航空会社への営業、航空機の駐機場の割り振りがある。

 太田さんは「華やかなイメージの空港の仕事だが、地道な裏方の仕事で支えられている。地味な仕事にもやりがいはある」と話している。

    ◇

 にわ・ういちろう 1939(昭和14)年、名古屋市中川区生まれ。58年、名古屋大法学部に入学。62年に卒業、伊藤忠商事へ入社。98年に社長に就任し、2004年から約6年間、会長を務めた。10年に初の民間出身の駐中国大使になった。15年から日中友好協会会長を務めている。

大勢の学生が集まった中部国際空港会社の説明会=名古屋市港区で
大勢の学生が集まった中部国際空港会社の説明会=名古屋市港区で