中日新聞CHUNICHI WEB

就職・転職ニュース

  • 無料会員登録
  • マイページ

【くらし】「介護と両立を」 増える企業の支援

2015/10/19

 仕事と介護の両立に向け、支援の充実に力を入れる企業が増えている。社内の「介護カフェ」での支援策PRや介護サービス費用の負担などを通して、介護しながら仕事を続けられる風土をつくり出そうとしている。介護が必要なのはベテラン・中堅社員が多いことから、介護離職で貴重な人材を失いたくないという意識も働いている。

 名古屋市のトヨタファイナンスに勤務する50代の男性社員は今春、関東に住む80代の認知症の両親のために3カ月の介護休業を使った。

 数年前に母が認知症と診断され、2人暮らしで支えていた父も昨春、認知症と分かった。両親とも「要介護1」で、訪問介護サービスなどを受けていたが、仕事の最中に介護事業所などから呼び出されることが続き、半年で十数回、年休を使って実家に駆けつけた。

 「仕事が思うように進まず、周りにも迷惑がかかる」と悩んでいた昨夏、同社が開いた勉強会「介護カフェ」に参加。▽法定の93日を上回る最長1年の介護休業▽介護のために最長五年の時短勤務▽24時間の電話相談ができる-など、会社独自の支援制度があることや、介護休業は介護に専念するためではなく、仕事と両立させる基盤作りに使えることを知った。

 人事部には専任の両立支援担当がおり、休業前に上司と3人で面談し、フォロー態勢や復帰後の計画などを確認。休業中は実家で両親と生活しながら遠方の弟とも話し合い、施設入所を決めた。

 「休みを取ると介護から抜け出せなくなるという先入観があったが、意識が変わった」

 両立支援担当の篠原宏美さん(53)は「社員が仕事で能力や持ち味を最大限発揮できるように会社が支える。社員は、介護を自らの問題ととらえ、早めに対応することが大切」と話す。

 外資系金融大手ゴールドマン・サックスは一月から、介護する家族一人当たり年間最長百時間のサービス費を負担する制度を始めた。介護会社と提携し、病院への付き添いや見守りなど介護保険だけでは足りない部分を補う。要介護認定がなくても利用できる。現在約30人が使う。昨秋、介護情報専用の社内サイトも作った。

 大成建設は全国の支店で社員向けの介護セミナーを開くほか、相談先の電話番号などを載せた名刺大の携帯カードを作成。人材いきいき推進室長の塩入徹弥さん(54)は「介護をしながら仕事をする人がいることが当然という意識を広めたい」と話す。

◆離職「大きな損失」

 企業が介護支援に力を入れる背景には、「優秀な人物に長期に継続して働いてもらいたい」(ゴールドマン・サックス)というように、重責を担う働き盛りの人材が流出しかねないとの危機感がある。

 総務省の調べでは2012年9月までの1年間に介護を理由に離職、転職した人は約10万1000人。そのうち50、60代が7割を占め、「その経験やスキルを失うことは企業にとっても大きな損失」(トヨタファイナンス)となる。

 仕事と介護の両立支援に取り組むNPO法人「となりのかいご」(神奈川県伊勢原市)の川内潤さん(35)によると、相談の中には部長クラスの幹部がある日突然辞め、仕事が回らなくなったり、退職意向を示した社員を思いとどまらせるために会社が介護施設探しを手伝ったりしたケースも。介護離職する人はまじめで、仕事にも熱心なタイプが多いといい、「会社が支援に前向きというメッセージを発信することで気軽に支援を受けられる環境を整えることが必要」と話す。

(山本真嗣)

社内サイトに載せた両立支援のガイドブックを見る篠原宏美さん=名古屋市西区のトヨタファイナンスで
社内サイトに載せた両立支援のガイドブックを見る篠原宏美さん=名古屋市西区のトヨタファイナンスで