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【暮らし】天職ですか/粉ミルク開発者・中埜拓さん

2015/09/21

 粉ミルク開発のため、母乳を研究している「博士」と呼べるだろう。提供者の母親から集めた母乳を「財産」と呼び、25年前から母乳の成分を分析している。

 1990年に雪印乳業(現雪印メグミルク)に入社後、働きながら粉ミルク中のタンパク質についての論文を書き、千葉大大学院で農学博士の学位を取った。現在はグループ会社「ビーンスターク・スノー」商品開発部(埼玉県川越市)で研究する。

 同社は50年以上にわたって、全国の母親のべ約4000人から集めた母乳の成分を調べ、粉ミルク作りに生かしている。例えばアレルギーを発症しなかった子どもが飲んでいた母乳には「リボ核酸」が多く含まれていることが分かり、粉ミルクに配合した。

 「母乳はミステリアスです」。出産直後にあげる「初乳」は黄色がかっているが、次第に白く変わる。これは、成分が変化するため。最初は多いタンパク質やミネラル分は徐々に減っていき、脂質や乳糖は逆に増える。成分は時間帯によっても変化し、夜あげる母乳にはメラトニンという睡眠に関係するホルモン物質が多く含まれる。

 長年の調査は、母親の食生活の変遷も裏付けている。第1回の60年と比べて、第2回の89年の調査では母乳中のタンパク質濃度が増加。一方、近年は魚介類摂取量が減っている影響でドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量も減少しているという。

 同社は今年、約1200人の母親から母乳を集めて第3回の調査を実施する。子どもが5歳になるまで体格やアレルギーの発症を追跡。母親の食生活や育児ストレス、ダイエット経験などが母乳に与える影響も調べる。最終的な結果が出るのは10年以上も先。

 「そのころには定年してるかな。でも研究にゴールはありませんよ」と笑う。先輩から受け継いできた研究にかける思いは、後輩に託すつもりだ。

 2人の子を持つ父親として、育児の大変さは実感してきた。「赤ちゃんの健やかな成長と、お母さんたちの負担軽減が目標」。母乳により近い粉ミルクを作ることが使命だという。

(細川暁子)

母乳を研究して粉ミルク作りに生かしている中埜拓さん。「お母さんたちの育児を応援したい」=埼玉県川越市で
母乳を研究して粉ミルク作りに生かしている中埜拓さん。「お母さんたちの育児を応援したい」=埼玉県川越市で