2015/08/10
いったん定年を迎えても、再就職するなどして働き続ける人が増えている。60~64歳の6割、65歳以上でも2割が働いており、働く人全体の2割を占める。今後も割合は高まるとみられている。
高齢・障害・求職者雇用支援機構が今春、定年後に継続雇用されている60歳以上の約700人に聞いたところ、「生活のため」「老後の生活に備えて」などが上位を占めた=グラフ。
雇用問題に詳しい遠藤公嗣・明治大経営学部教授(65)によると、60歳以上で働き続ける人が増えているのは、生活水準を維持したり、年金制度への不安から貯蓄を殖やす目的があるという。60代でも元気に働ける高齢者が増えていることもある。企業には、65歳までの継続雇用が法律で義務づけられたこともあり、受け入れる企業側の基盤も整いつつある。
「高齢でも働く人が増えるのは社会にとって望ましい。ただ個々の能力を生かし切れていないのでは」
定年後の働き方は契約社員やパート、アルバイトなどの非正規労働がほとんど。60歳以上で働いている人の多くが、低賃金なのが実情だ。
働く側は、60歳までの賃金体系を維持したまま働き続けることを最も希望するが「大企業では特に難しい。年功序列で昇給する代わりに、定年で辞めてもらうのが会社のシステムとなっているから」と遠藤教授。賃金体系が維持される定年延長を導入しているのは、中小企業のごく一部だ。
少子高齢化の影響で、若年労働者の減少は今後顕著になり、低賃金の飲食業界や介護業界などのサービス業で労働力確保が今以上に困難になることが見込まれる。賃上げが十分できない中小企業は定年延長や廃止がやりやすく、別の会社を定年退職した人を受け入れる余地が大きいという。
遠藤教授は「子育て費用などがかからない定年後は、生き方の自由度が高まる。起業や、新しい仕事にチャレンジすることも考えてほしい」と勧める。
◆「定年制」戦時体制に源
「定年制度の芽は、実は戦時体制にあったんです」と話すのは労働政策研究・研修機構(東京都)主席統括研究員の浜口桂一郎さん(56)だ。
国民を戦争に動員するため、政府は労働統制を強化し、賃金統制令などで年功賃金と退職金支払い、55歳定年制を企業に強制。地方の産業報国会は「男の操だ 変わるな職場」という戦時スローガンを作り、転職を防いで生産効率を高めることで協力した。ただ、労働力不足などで定年制はほとんど機能しなかった。
敗戦で労働統制はなくなったが、「終戦直後の労働争議の影響で、企業は戦時中の制度をそのまま上書きしたような雇用慣行を導入した」。
当時の電力業界の賃金表は、年齢を重ねるほど昇給し、扶養家族手当も盛り込む。年功序列と55歳定年制が普通になったという。低賃金で若年労働者を使えるこの制度は「高度成長期には、企業にとって都合が良かった」。
1986年、60歳定年制を規定した高齢者雇用安定法が成立し、94年に義務化された。現在は65歳までの継続雇用が義務付けられている。米国や英国など一部の先進国では、定年制は差別であるとして法律で禁止されている。
(林勝)
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