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【大学生】LGBT(性的少数者)の就活「カミングアウト」に悩む

2015/07/21

 「LGBT」(性的少数者)の学生にとって、就職活動は悩みや不安がより深い。性的マイノリティーに対する社会の認識は少しずつ広がっているものの、まださまざまな場面での壁は多く、就活もその一つだ。(長田真由美)

 ◇ ◇ ◇

 名古屋市内の大学院に通う男子学生(24)は、今年3月から就活を始めた。小学生のころから気になるのは同性で、自分がゲイと自覚したのは中学1年。大学3年生のときにバイセクシュアルが原因でいじめられ自殺した米国の少年を知り、ひとごとではないと感じた。「自分にもできることはないか」。LGBTをもっと知ってほしいと、信頼できる友人に打ち明けた。

 就活には苦い思い出がある。学部生時代に受けた人材系企業の最終面接で、研究テーマ「ゲイの高自殺率」について語った。自身がゲイであることを明かさずにいたら、面接官から「自殺率が高いのは、自分でその道に進んだのだから自業自得だ」と言われた。

 それまでの段階で若手社員と話し、手応えを感じていた。「この会社なら、いつかカミングアウトして、自分と同じようなLGBTの就活生を支援できそう」。そう期待していただけに失意も大きかった。内定を辞退。大学院に進む道を選んだ。

 迎えた2度目の就活では、自己分析を徹底し、自身の感性を生かせる化粧品業界を選んだ。悩むのが、セクシュアリティー(性の在り方)を明かすタイミングだ。聞かれれば正直に答えるつもりだが、ゲイという先入観をもたれることには、少し違和感がある。ゲイは、自分を形作る個性の一つであって全てではない。でも、言わずに働き続けるのは大きなストレスになりそう。「自分らしく働くためにどうしたらいいのか、今も考えている」と言う。

 近年、LGBTに関するニュースが国内外で相次いでいる。東京都渋谷区では同性パートナーに証明書を発行する条例が成立。米国では、連邦最高裁が全米で同性婚を認める判決を出した。ただ、社会全般に定着するには遠く、就活の場でも理解を示す企業があるものの、意識が浸透しているとは言えないという。

 「誰が悪いということでなく、LGBTの人が身近にいるという想定が足りないことが課題」。LGBTの支援に取り組むNPO法人「ReBit」(東京)の代表理事、薬師実芳(みか)さん(25)は言う。LGBTの就労への理解を広めようと開いた講座で話した。

 薬師さん自身、心と体の性が一致しないトランスジェンダー。戸籍は女性だが、18歳から男性として生活する。就活では、トランスジェンダーであることを説明すると、面接を打ち切られたり、「あなたの体はどうなっているのか」など心無い言葉を投げられたりした。そもそもスーツはどちらを着るのか、エントリーシートの性別欄はどちらに丸をつけるのか、などと入り口から悩みは多い。

 薬師さんは「LGBTに限らず、見えないマイノリティーを想定した職場は、誰にとっても働きやすいはず。差別禁止を明文化したり、社内研修をすることで、会社内でも理解を広げてほしい」と話している。

◆企業の取り組みHPで紹介 まだ低い社会認識

 「ReBit」はこの春、LGBTの就活生に向けたウェブサイト「LGBT就活」を開設した。

 この中で、企業の取り組みとして6社を紹介。例えば野村証券は、社内の倫理規定に「性的指向」と「性同一性」による差別をしないとする記載を盛り込んでいる。新卒や中途採用時、管理職研修で、LGBTについて説明するなど、社内での周知を徹底していることを取り上げた。

 また、自分らしく働くLGBTの社会人7人を紹介。好きになる人の性別を問わない「パンセクシュアル」の女性は、出版社勤務。学生時代はLGBTに関わる活動に力を入れたことから、就活でもセクシュアリティーを明らかにした。ただ、否定的な反応は自身を消耗する。「無理に話さなくてもいいように、別のネタを複数用意しておいて、自分の精神力をコントロールしながら進めていくのも大切」と呼び掛ける。HPは「LGBT就活」で検索。


【LGBT】 レズビアン(女性の同性愛者)、ゲイ(男性の同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と体の性の不一致)のそれぞれの頭文字を取った性的少数者の総称。今年4月、電通ダイバーシティ・ラボが~歳約7万人を対象にした調査で、LGBTに該当する人は7.6%に上るという結果が出た。およそ人に1人の割合になる。

就職活動するLGBTの男子学生=名古屋市内で
就職活動するLGBTの男子学生=名古屋市内で