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【くらし】労働の感情的負担 対価を 行政の窓口業務 深刻な相談も

2015/03/30

多くは非正規職員 改善訴え

 精神的に不安定な人や、虐待被害者らの相談を受け付ける行政の相談窓口担当者。感情的な言動や理不尽な要求を受けながら、冷静な対応が求められる「感情労働」の負担が大きい。その多くが非正規職員で「負担に見合う対価を得ていない」との指摘も。専門家は「適切な職務評価を根拠に処遇改善を求めるべきだ」と訴える。 (林勝)

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 「夫に家を出て行けと言われた。どうすれば…」。東京都内の自治体施設にある、女性のための生活相談室。女性の震える声が狭い室内に響いた。夫の激しい言葉や暴力などの過酷な状況が目に浮かぶ。相談員の女性(50)は被害女性の思いに共感しつつ、一方ではメモを取り、事実関係を見極めようと努めた。

 相談員は女性を一時保護することを考えた。制度に基づく措置の一つだが、本人にとっては「人生の決断」に相当する。その判断に関わることに責務の重さを感じた。措置が決まれば「気持ちを切り替えて」手続きへ。ただ、感情が気持ちを簡単には整理させてくれない。「対応は正しかったのか」。割り切れない思いがついて回る。

 相談員の女性は非常勤職員で、1日7時間半の勤務を週4日こなす。報酬は人件費ではなく、物件費から支払われる。相談が長引いたり、事務手続きなどが重なったりして残業になっても、時間外手当は出ない。年収は約200万円で、同じ職場の正規職員の3分の1程度。女性は「培ってきた職能や仕事の負担を考えると、いまの処遇には納得できない」と話す。

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 自治労が2012年にまとめた自治体非正規職員の賃金・労働条件調査によると、この女性のような相談業務に携わる職員の九割が、臨時・非常勤などの非正規だ。問題を抱えた相談者とじかに接することの多い窓口業務を、正規より低い処遇で担っている。

 「行政の窓口業務を担当する非正規は多いが、負担に応じた対価が支払われているとは言えない」と、雇用問題に詳しい明治大経営学部教授の遠藤公嗣(こうし)さん(64)は指摘する。労働に伴う負担には精神的、身体的、感情的な要素がある=図。その中でも感情的負担についてはほとんど知られていない。

 遠藤さんは、非正規の低い処遇を問題視した自治労の依頼を受けて12年、都内のある自治体で正規と非正規の職務の価値を調査した。英国の自治体職員の職務評価手法を参考に、労働環境、負担、責任、知識・技能について、職員の聞き取り調査から職務の価値をそれぞれ点数化。特に非正規が生活相談窓口を担う職場では、正規と比べて非正規の感情的負担が著しく大きいことが示された。

 遠藤さんは「窓口業務の負担が大きいのは当然。客観的な手法でこれを示し、非正規の賃上げと均等待遇につなげるべきだ」と訴える。だが、職務の価値を各職場で調べ、非正規の処遇改善を図ることには、自治労内部での理解は乏しい。

 正規と非正規を含む自治体職員は約280万人。このうち非正規は推計70万人超に上るが、組合に加入しているのは約7%にすぎない。正規は約80万人が自治労加盟の組合に所属している。非正規の低い組織率が、発言力が弱い要因になっていると自治労はみている。