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【愛知】安城の浦田さん元営業マン、苦難の再出発

2015/03/24

男45歳保育に生きる

 大手陶磁器メーカーのグループ会社で営業担当課長だった愛知県安城市の浦田裕人(ひろと)さん(45)が19年間勤めた会社を退職し、4月、保育士デビューする。中年男性にとって女性中心の保育現場への就職は苦労の連続だったが、晴れて就職先が決まり、期待を胸に新たな一歩を踏み出す。 (豊田支局・河北彬光)

 ◇ ◇ ◇

 「隠すのは頭とお尻。できたかな、イエス!」。3月上旬、名古屋市南区豊の明治保育園の遊戯室。はしゃぐ園児たちの真ん中で、園で研修中の浦田さんが趣味のギターに乗せ、退職後に覚えた遊び歌を一緒に歌って跳びはねていた。

 「恥ずかしがると、子どもはついてこない。自分をさらけ出すことが大切です」。数字を競う営業マン時代の厳しい表情から一変し、穏やかな笑みがあふれる。

 大学卒業後は、営業一筋の会社人生を歩んできた。子どもと接する仕事には就職前から興味があった。転機は14年前、保育士の妻陽子さん(41)との結婚。子どもたちの成長を見守れる保育士のやりがいを日々見聞きし、漠然とした興味が次第に目標へと変わった。

 「私が一家の大黒柱になるから」と陽子さんも背中を押し、2013年3月末で会社を退職した。長男と長女は当時、小学5年生と2年生だった。保育士の資格を取るため、若者に交じって慈恵福祉保育専門学校(愛知県岡崎市)に2年間通い、3月12日に卒業した。

 男性として保育の現場でどう働けばいいか。経験者に学びたくて、同県豊田市の男性保育士グループにも参加。父親に子育てのこつを教える講座では、男性ならではの全身を使った遊びや歌を実践して保育スキルを磨いてきた。

 ただ、昨年夏からの就職活動は挫折の連続だった。多くの公立保育所は「30歳まで」などの年齢制限があり、試験すら受けられない。私立の六カ所に採用を申し込んだが、電話口で「男性は採ったことがない」「既に男性保育士は1人いるので」と門前払いに。結局どこからも内定が得られず、2月に陽子さんの母、橋本君代さん(67)が園長を務める私立の認可保育所、明治保育園から「うちで力を発揮してほしい」と声を掛けてもらい就職が決まった。

 男性への逆風に失望しかけたが、働くことが決まった今は希望に満ちている。「働き始めたら必ず現実にぶつかる。それでも子どもの心に寄り添える保育士を目指したい」と意気込む。橋本園長も「男性のダイナミックな保育を望む保護者も多い。得意のギターや遊びで園児を引きつけてほしい」とエールを送る。

◆男性保育士2.9%
◆低い賃金水準も影響

 男性保育士は、保育現場では少数派だ。厚生労働省がまとめた2012年の調査によると、全国の公立・私立保育所で働く保育士は35万3100人。うち男性は2・9%(1万140人)にとどまる。

 背景には、歴史的に女性中心の職場だったことに加え、保育士の賃金水準の低さがある。男性保育士でつくる「全国男性保育者連絡会」の事務局長で、東京都内の私立保育園長を務める西巻民一さん(50)は「男性保育士は世帯主になって子どもができると金銭面で生活が成り立たず、辞めてしまうケースが多い」と現状を話す。

 保育所側も男性の将来を考え、積極的な採用に踏み切れない事情もあるという。

 西巻さんは「子どもの人格形成の観点からも、性別、年代ともに多様な保育士がいる方が望ましい」と話し、まずは男女問わず保育士の待遇改善が必要だと指摘する。(中日新聞・夕刊)

得意のギターを手に園児たちと触れ合う浦田裕人さん=名古屋市南区豊の明治保育園で
得意のギターを手に園児たちと触れ合う浦田裕人さん=名古屋市南区豊の明治保育園で