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【暮らし】私生活充実へ「3時退社」 企業時短に新たな視点

2015/03/02

 子育てや介護を理由に早く帰宅できる社内制度とは違い、自分の時間を持てるようにと「三時退社」を実践する企業がある。趣味や家族、通院など、私的な時間の充実という視点から制度を整えたのが特徴だ。一方、限られた時間で仕事をどう効率よく進めるかが課題になっている。


 滋賀県東近江市の住宅リフォーム業「桃栗柿屋」には週一回、午後三時に退社できるユニークな制度「週1三時」がある。


 昨春から始めたこの制度は、自身の仕事やプライベートに応じて、何曜日を三時退社にするかは個人の自由。前日までに申告すればOKだ。


 五歳の男の子を育てる営業の村井理恵さん(36)は普段、夕方六時半の保育園の迎え時間まで働くが、三時退社の日は子どもと一緒に公園で遊ぶ。「子育てを会社に応援してもらっている感じ。仕事にも前向きになる」と話す。入社二年目の事務職、清水翔子さん(21)は、友人に誘われたスポーツサークルで汗を流すなど趣味の時間に充てる。「三時に帰るため、朝早く来て仕事を片付けよう」と意識するようになった。


 社長の野々村新治さん(45)は「自身の健康や家族を犠牲にして働くのは評価しない。自分で判断し、能動的に仕事をする。その上で利益も出す会社にしたかった」と制度導入の理由を話す。「仕事の進み具合は心配だし、失敗もあるが、まず社員に任せることが大事。トラブルがあれば社長が責任を取る」


 野々村さんが二〇〇四年にリフォーム業を始めた当時、社員は四人だった。今は十五人に増え、女性社員も七人に。一三年には不動産業にも進出し、若い社員が増えたため、社内制度を充実しようとアイデアを募った。導入後、社内では家族の話題が飛び交い、社員間のコミュニケーションもよくなったという。


 この取り組みは先月、人材サービス業のリクルートキャリア(東京)が昨年初めて企画した、職場を盛り上げる取り組みを表彰する「グッド・アクション2014」の女性活躍促進部門に選ばれた。

◆「効率よく仕事」が課題

 資産運用の三井物産ロジスティクス・パートナーズ(東京)は、昨年からフレックスタイム制度を導入した。社員三十人で、午前十一時~午後三時以外の出退勤は自由。社長の川島高之さん(50)は三年前の社長就任直後から「私生活を大切に」と言い続ける。自身も会社員の傍ら、少年野球のコーチや子どもの力を伸ばすNPO法人の代表を務めるなど、私生活を重視してきた。


 独身の女性社員は休みの土日と組み合わせて遠方の実家へ帰省する。仕事一筋だった部長職の男性も好きな山登りのため、休みを取るように。私生活の充実で社員の表情も明るくなったようだ。


 ただ、適切に運用しないと職場の雰囲気が緩む心配も。川島さんは「九回裏二死満塁の投手の気持ちで、要の仕事に集中を」と厳しい。社員も会議の時間や回数、仕事の効率化、他部署との連携など、一人一人がいかに緊張感を持って働くか、知恵を出し合う。時間管理がルーズ、成果に結び付かないなどと社長が判断したら、制度をやめることになっている。


 川島さんは「社員の自覚と責任の上に成り立っている制度。今のところ成果が出て株価も上がり、給与にも反映できた。一見、自由なようだが、自分の責任で仕事を進める覚悟が必要だ」と話している。


(福沢英里)

社内制度を活用した社員の写真。私生活の様子も社員同士で披露し合う=滋賀県東近江市で
社内制度を活用した社員の写真。私生活の様子も社員同士で披露し合う=滋賀県東近江市で
子育て中の社員の村井理恵さん(左)と木田幸宏さん。3時退社の制度を活用して働いている=滋賀県東近江市で
子育て中の社員の村井理恵さん(左)と木田幸宏さん。3時退社の制度を活用して働いている=滋賀県東近江市で