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【働く】広がる職場のBGM 会話生まれよい雰囲気に

2015/02/16

ストレス対策で注目

 社内外のやりとりに電子メールを多用するなど、職場のIT化で従業員の会話や話し声が減っている。コピー機やプリンターなど機器の性能向上も重なって、必要以上に静かな状態のオフィスも多い。職場のコミュニケーション促進や、仕事にめりはりをつけるため、環境の改善策として職場に音楽を流す取り組みが広がっている。(諏訪慧)

 ◇ ◇ ◇

 大手住宅メーカーの三井ホーム(東京都新宿区)本社。総務や経理、人事を担当する約80人が働くオフィスで、天井に埋め込まれたスピーカーからバイオリンの音色がかすかに流れる。昨年10月、有線放送のUSEN(同港区)が提供するオフィス向け音楽提供サービスを導入。集中力を高めるとされるテンポの曲を集めた番組など、時間帯に応じて複数の番組を使い分ける。めりはりをつけるため、昼休み前後は音楽をかけない工夫もしている。

 提案したのは、昨年4月に京都支店から異動してきた総務部長の古徳真人(ことくまこと)さん(56)。パソコンを打つ音が無機質に響く、冷たい職場の雰囲気に「これでは会話は生まれない」と感じたからだ。法務などを担当する井本彩さん(27)は「音楽が流れることで、声の大きさに気を使うことが少なくなった」。以前は電話の声も自然と小さくなった。「今は同僚らと話しやすくなった」と満足そうだ。

 終業の午後6時には、落ち着いたクラシックから一転して映画「ロッキー」の勇ましいテーマが響く。すると、各課ごとに仕事の進み具合や残業の必要性を自然と話し合うように。コミュニケーションが活発になり、導入前と比べて残業も減ったという。

      ◇

 USENがオフィス向け音楽サービスを始めたのは2-13年2月。クラシックやポップスのヒット曲、ラジオなど、多様な85番組をセットに、月5000円から販売している。問い合わせは月平均で300件余りで、昨年6月以前と比べて倍近い。背景には昨年6月、労働安全衛生法が改正され、従業員50人以上の事業所に従業員のストレスチェックが義務化されることがある。同社によると、メンタルヘルス対策の1つとして、関心を寄せる企業が多いという。

 施行は今年12月からの予定。厚生労働省によると、企業は従業員に年1回以上、医師や保健師らによるストレスチェックを受けさせなければいけない。厚労省が示す57項目の質問票を用いたり、独自に作成したりして実施。結果は従業員に直接通知され、申し出があれば、企業は医師による面接指導をする必要もある。

 USENでは、番組づくりに際して心理学の専門家らに協力を依頼。沈んだ気持ちを整理するのに効果的とされるオリジナル曲などもあるという。

 同社への問い合わせが目立つのは、IT関係のベンチャー企業。担当者は「黙々とパソコンに向かって仕事をすることが多く、会話の生まれにくい環境だからでは」と分析。「学生のころにBGMの流れるカフェで勉強した世代が社会人となり、音楽を耳障りと感じず、むしろ集中できる人が増えているのかも」

 愛知医科大の小林章雄(ふみお)教授(産業保健)は「職場や職種によって、さまざまなストレス要因がある。音楽を流すのも一つだが、企業は実情に応じた対策を」と要望。「義務化されたからといって、ストレスチェックをするだけでは意味がない。企業が職場環境全体の改善へ目を向けてこそ、法制化の意義がある」と話している。

仕事の邪魔にならない程度に音楽が流れるオフィス。手前の黒い箱は音量などを調節するアンプ=東京都新宿区の三井ホームで
仕事の邪魔にならない程度に音楽が流れるオフィス。手前の黒い箱は音量などを調節するアンプ=東京都新宿区の三井ホームで