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【暮らし】職場の席共用「フリーアドレス」 連携、情報交換スムーズに

2015/01/12

 職場に社員の決まった席がなく、毎日自由に変えられる「フリーアドレス」というオフィスの形態が注目されている。営業職では全員分の机を用意する必要がなく、スペースを有効に使える。自由に席を移動することでコミュニケーションも活発になり、新商品の開発や営業の幅が広がるといった効果も生まれている。


 名古屋市中区のビジネス街にある情報ネットワークサービス「NECネッツエスアイ中部支店」のオフィス。広さ約七百三十平方メートルの空間には、視界を遮る物がない。


 「百二十センチ以上の高さに物がないようにしているんです」。支店の第二営業部長、浜島博志さん(50)が説明する。勤務するのは営業職と技術職、総務や経理など約百二十人。これに対して会社にある席の数は約七割だ。それでも浜島さんは「全く問題ない」と言う。営業職はもちろん、技術部門の職員も、社内システムの構築や保守サービス、無線LAN環境の整備などのため、社外に出ていることが多いためだ。


 支店では、二〇一三年三月にフリーアドレスを導入した。以前は部門ごとに分かれたいわゆる“島形式”のデスク配置。部長の机の前にずらっと部員の机が並ぶ状態で、部と部は最大で四十メートル離れていた。


 遠さは連携の悪さにもつながった。営業部員が顧客から受けた要望や質問は、営業の部長、技術の部長を通じて担当の技術者に伝えられるため、対応に時間がかかった。そもそも一人一人の机に資料が山積みされていて、担当者がいるかどうかでさえ、すぐには分かりづらかった。


 フリーアドレスで課題は解消。机は共用のため、資料は個人のロッカーに収納し、机の上から物が消えてすっきりした。部長はまとまって座り、部長同士の情報交換はスムーズに。部員同士の交流も生まれやすくなり、空いたスペースは議論ができる場所に生まれ変わった。


 顧客への対応が速くなったほか、技術者と営業職の話し合いから多彩な提案が生まれ、新たな市場開拓にもつながっている。支店長の大中淳さん(52)は「もともと通信工事を専門としていたので、営業活動が受け身だった。決定が速くなったほか、提案の幅も広がった」と話す。


     ◇


 オフィス家具大手「コクヨファニチャー」(大阪市)によると、フリーアドレスに関心を寄せる企業は多く、相談件数も近年は増えているという。


 同社中部設計グループリーダーの日比野幸洋さん(47)は「相談してくる会社は、社員のコミュニケーション活性化を課題に挙げることがほとんど」と言う。IT化が進み、パソコンに向かっての作業が増え、社員同士のコミュニケーションは不足しがち。その解決手段となるほか、「商品開発や営業の新たな提案をするため、部門を超えたコミュニケーションが必要になっている」と分析する。


 ただ、フリーアドレスも万能ではない。せっかく席を自由にしても決まった人が決まった位置に座っていては、コミュニケーションの活性化にはつながらない。人数が多すぎて、誰がどこに座っているか分からないという事態もある。


 日比野さんは「フリーアドレスは職場の課題を解決する手段であって、目的ではない。これが正解という決まった形態はなく、それぞれの職場で働いている人同士が議論をしながら、よりよいものに変えていくのが大切」と話している。


(寺本康弘)

フリーアドレスを導入し、他部門との話し合いも積極的に行われるようになった=名古屋市中区のNECネッツエスアイ中部支店で
フリーアドレスを導入し、他部門との話し合いも積極的に行われるようになった=名古屋市中区のNECネッツエスアイ中部支店で