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【暮らし】会員増へ独自事業 シルバー人材センター

2014/06/13

 高齢者に働く場を提供する自治体のシルバー人材センター。高齢者は増えているのに近年、全国的に会員が減り、仕事の契約額も下がっている。そんな中、独自の事業で会員増につなげようとするセンターがある。担当者は「知名度を上げ、これまでのイメージを変えたい」と話す。

 家庭的な雰囲気の中、女性がコーヒーを注いだり、カレーを器に盛り付けたり。テーブルに運ぶと来店客と会話が始まり、笑い声が響く。愛知県大府市シルバー人材センターは二年前、市内に「喫茶さくら」を開店。六十四~七十五歳の女性十人が交代で勤める。当初から働く大坪かね子さん(71)は喫茶店の経験はなかったが、ウエートレスは若いころのあこがれ。「店に来てくれる人と話をするのが楽しい。友達も増えるし、お金ももらえる。毎日だらだらせず、目的を持った生活ができる」と喜ぶ。

 喫茶店の建物は市の施設をセンターが無償で譲り受けた。高齢者の生きがいづくりを目的に「幸齢(こうれい)ゆめハウス」と名付け、児童向けに学習を手助けする「シルバー寺子屋」や会員が特技を生かして講師になる文化教室も開いている。

 現在は順調だが、最初は働く会員一人に渡せる報酬は一時間二百五十円ほどだった。そこで喫茶店のメニューを増やしたり、手作りの小物を販売するスペースを設けたり。売り上げ増で今は七百円になった。ゆめハウスに関係して働く人は三十人になる。事務局長の伊佐治辰夫さん(62)は「事業を通してシルバーを知ってもらったり、明るく楽しい場との印象を与えたりしたことが大きい。シルバーといえば草刈りや清掃という、従来のイメージを変えたい」と意欲的だ。

      ◇

 埼玉県草加市シルバー人材センターは、暮らしの中のささやかな困り事を代行する生活支援サービスをしてきた。より利用しやすいように二年前からは、六十五歳以上と障害者の利用者に限定し、簡易な作業を請け負う「ちょこっと手助けサービス」を始めた。

 朝のごみ出しや植木の水やり、電球交換など三十分程度の作業で一回五百円。昨年度の利用は延べ七百五十四件で、中には買い物した荷物を家まで運ぶ、話し相手になるとの内容もあった。民間企業が取り組むには難しい隙間を担い、会員の働く機会を増やす。

 五百円のうち、会員に払われるのは四百五十円。作業する場所への行き帰りの時間や準備を考えると、決して多くはない。だが、利用者には金額が高いと依頼しづらくなり、価格設定としてはぎりぎりだ。会員の柏倉(かしわくら)定男さん(75)は「健康にいいし、役に立てればとの気持ちで働いている。お金は気にしていない」という。

 センターでは、ゼロ~三歳児と親が集まって交流する「親子のひろば のび~すく」の運営や、自転車のリサイクル販売など、多彩な事業も手掛けている。本多隆良(たかよし)理事長(73)は「会員数や運営を維持するには、会員が希望するさまざまな仕事があるという状況をつくっていく必要がある」と話した。

 全国シルバー人材センター事業協会(東京都江東区)は、全国的な会員減の背景に、定年退職が六十五歳になりつつあることや、シルバーの仕事による収入が少ないと考える人が多いことなどを挙げる。担当者は「自治体の施設管理の仕事は指定管理者が担い、企業の仕事も定年延長で社員がするようになり、センターが何もしないと仕事は減るばかり。独自事業の開拓はますます重要になる」と指摘している。

 (寺本康弘)

 <シルバー人材センター> 高年齢者雇用安定法に定められた会員組織。全国のほとんどの市区町村に設置されている。60歳以上の人が、居住地のセンターに入会できる。センターは会員に仕事を提供し、就業実績に応じた配分金(報酬)を会員に支払う。全国の会員数は2009年度の79万1859人から年々減少し、12年度は74万3969人。

シルバー人材センターが運営する「喫茶さくら」で働く女性会員ら=愛知県大府市で
シルバー人材センターが運営する「喫茶さくら」で働く女性会員ら=愛知県大府市で
「ちょこっと手助けサービス」で花に水をやる柏倉定男さん=埼玉県草加市で
「ちょこっと手助けサービス」で花に水をやる柏倉定男さん=埼玉県草加市で