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【暮らし】どう防ぐ 介護離職(上) 周囲の無理解が両立阻む

2014/05/16

 高齢者人口の増加に伴い、介護問題に悩む働き盛りの4、50代が増えている。仕事と介護を両立できず、経済的不安を抱えながら離職する人も。職場や親族のほか、介護関係者からも理解を得られず、追い詰められる介護者たち。その現状や解決に向けた方策などを、2回に分けて考える。

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 「職場の人に理解してもらえない。追い詰められると頭が混乱し、自分から進んで情報を得る気力もなくなってしまう」。東京都の荒川区男性介護者の会が、五月初めに同区内で開いたパネル討論会。今年2月に実父を81歳でみとった渡辺紀夫さん(49)=墨田区=が、約3年半にわたる介護の様子を振り返った。

 2010年、認知症が進んだ父を母と介護するため、福島県での飲食業の仕事を辞めて都内に引っ越した。渡辺さんは独身で、親族は協力的でなかった。生活のため、老人保健施設の調理場の仕事に就いた。理解があるだろうと考えたが、甘かった。同僚に断って早く帰宅しようとすると「仕事をばかにしている」「認知症は病気じゃない」などと責められた。

 父は腎不全で、食事管理の負担が大きかった。無理に仕事と介護を両立させようとした結果、うつ状態になり、仕事が続けられなくなった。「こうなるなら、もっと早く辞めれば良かった。これが現実」と話す。パネル討論に出たのは「もっと社会の理解を」と訴えたかったからという。

      ◇

 「左足上げて、右足上げてって、自分に言い聞かせながら散歩しているの」

 名古屋市内の高齢者住宅に単身で住む女性(75)が、京都府北部から様子を見に来た次男の男性(49)に近況を伝えた。母の日の贈り物に「うれしいねえ」と、目尻にしわを寄せた。

 男性は京都府内の中堅企業の事務職。10年から3年間、仕事を続けながら認知症の義母を自宅で介護した。昨秋、義母が亡くなり、遠く離れた実母と向き合う余裕ができた。実母は「迷惑をかけたくない」と同居を拒むが、今後、何かあった場合を考えると不安になる。

 義母の介護は困難続きだった。持病のある妻は対応しきれず、自分が主に担った。会社は休みや早期退社を認めてくれたが、自分の穴を別の社員が埋めてくれる余裕はなかった。「今の仕事が何とか回っていれば、これからも回るだろうと考えるのが組織」。残業をしない代わりに始業時間を早めるなど、仕事のやり方を組み直して対応した。

 一方、義母は家族と接するときだけ症状が顕著に出る。そのため、義母の言動を信じた行政の福祉担当者やケアマネジャー、介護職員から「ひどい家族だ」と非難された。追い詰められて限界に達したとき、関係者を全員自宅に呼んで思いを吐き出し、こう叫んだ。「『病気だから仕方ない』で全て済ませるな」。それから行政職員らの対応が一変し、入院調整や介護施設の利用など、家族の目線で動いてくれるようになった。

 「介護から逃げても楽になるどころか、むしろ苦労は増える。だったらやるしかない。そのとき、心を開けば、周りに助けてくれる人が誰かいるはずだ」

 2人はいずれも介護を「自分がやって良かった」と振り返る。男性介護者の会や認知症家族の会に出席し、同じ悩みを持つ人に経験を伝えている。

(林勝)

【介護離職】
 総務省が昨年発表した就業構造基本調査によると、2012年に仕事をしながら介護をしている人(291万人)のうち、40~50代は167万人。要介護状態の家族1人につき、93日を上限に休める介護休業制度を利用した人は7万6000人。短時間勤務(5万6000人)や介護休暇(5万5000人)の利用はさらに少ない。07~12年の介護・看護のため離職した人は計48万7000人に上り、うち女性は38万9000人、男性9万8000人。

次男から、母の日の贈り物を受け取って喜ぶ女性。次男は介護に悩む日々を送った=名古屋市内で
次男から、母の日の贈り物を受け取って喜ぶ女性。次男は介護に悩む日々を送った=名古屋市内で