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【暮らし】定年後のシニア就労 「自ら起業」も選択肢

2014/05/02

 定年退職後も健康で「働きたい」と考える人は多いが、「希望する求人がない」などの理由で諦める人も多い。そんな中、自ら起業するシニアが増えている。「自分のペースで好きな仕事ができる」「やる気があれば、いつまでも働ける」と実際に創業した人はメリットを強調する。シニアの起業を支援する専門家は「現役時代に自分の強みを磨くことが大切」と話している。

 愛知県弥富市の荒尾良雄さん(63)は5年前、大手通信会社を早期退職した。現在は不動産取引の仲介と、マンション管理組合の相談業務をしている。自宅を事務所とし、仕事は毎日ではなく、依頼を受けたときだけする。昨年の売り上げは約200万円だった。荒尾さんは「これだけでは苦しいが、企業年金などもあるのでやっていける」と話す。

 起業の準備は在職中から始めた。出勤前と帰宅途中に勉強し、宅地建物取引主任者やマンション管理士の資格を取得。「60歳まで働くと、燃え尽きて新しいことを始める気力がなくなるような気がして」と定年まで2年を残して退職し、すぐに事業を始めた。

 荒尾さんは現役時代、主に経理畑を歩んだ。金融機関から融資を受けるための資料作りや、収支計画を作るのは得意。現在のマンション管理組合の相談業務に役立っているという。「上からの命令でなく、自分で決められるのがよい」と現状に満足している。

 同県岡崎市の天野正己さん(61)は、大手電機メーカーで生産設備の開発をしていたが、10年前に退職。主に台湾で製造された機器を日本に輸入する事業を手掛けた。借り入れが2000万円に上り、返済に自己資金を投入する苦い経験もあったが、現在は完済。今月からは新たな事業に挑戦する。天野さんも「年齢に関係なく、自分のやりたい仕事にいつでも挑戦できる」とやりがいを感じている。

      ◇

 50~60代に特化した起業と経営のコンサルタントを手掛ける「銀座セカンドライフ」(東京都中央区)社長の片桐実央(みお)さん(33)は「現代の50代、60代は若い人に負けないほど気力も体力もあり、さまざまな知識と経験がある。それらを生かした起業ができる」と指摘する。

 長年会社に勤めていた人が起業するときに多いのは、前職の経験を生かしたコンサルタントやアドバイザー、営業代行などだ。中小企業と顧問契約を結び、部品製造の技術をアドバイスしたり、商品を卸業者や小売店に売り込んで、売り上げの数%を手数料としてもらったりする。片桐さんは「退職後は会社員時代の知識や人脈が財産であり、その人の強みになる」。

 魅力の多い起業だが「収入が安定しない」「将来が約束されていない」といった点が、不安要素に挙げられる。「若い人と違い、年金にプラスの収入や社会とのつながりを求めて起業する場合が多い。大きな売り上げを目指して、いきなり大きな投資をするのではなく、アドバイザーや営業代行といった形で小規模にするのがいい」と片桐さん。そうすれば「初期投資も少なくて済み、在庫を抱える心配もない」と説明する。

 シニアの起業では現役時代、いかに自分の強みを磨き上げられるかも重要だ。片桐さんは「40代後半から50代前半に、何をして起業するかを明確にするといい。早く決めていれば必要な資格を取得したり、大切な人脈を広げたりすることもできる」と早めの準備を勧める。

 「定年後の働き方は再就職か再雇用だけではない。誰もが起業に向いているわけではないが、一つの選択肢として考えてみては」と話している。

 (寺本康弘)

「会社に出勤せず、仕事を自分で決められるのがいい」と話す荒尾良雄さん=愛知県弥富市で
「会社に出勤せず、仕事を自分で決められるのがいい」と話す荒尾良雄さん=愛知県弥富市で
「シニアの起業は会社員時代の経験が生かせる」と話す片桐実央さん=東京都中央区で
「シニアの起業は会社員時代の経験が生かせる」と話す片桐実央さん=東京都中央区で