2014/04/20
パソコン撤去
ビジネスの現場で、スマートフォンを使わない社員に手当を出したり、営業マンの机からパソコンをなくすなど、デジタル機器との付き合い方を見直す動きが出てきた。同僚や取引先との会話が減ったことで、便利さの裏側にある「副作用」への危機感が背中を押した。アナログ的な仕事のやり方を復活させ、社員の実力アップにつなげる試みだ。(経済部・白石亘)
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「スマホをガラケーに替えれば、デジタル機器に触れない時間が増える」と話すのは機械部品メーカー、岩田製作所(岐阜県関市)の岩田修造社長(66)。スマホを使わない社員に月5000円を支給する「デジタルフリー奨励金」を昨年7月に導入。ガラケーと呼ばれる従来型の携帯電話は使っていいが、ゲームは禁止だ。
きっかけは昼休みに会社のベンチで、スマホばかりいじって、会話のない社員の姿を目にしたこと。「何かおかしいという思いが臨界点に達した。パソコンや携帯電話を使うなと言っても無理だが、負の側面を自覚してほしいというメッセージ」と岩田社長。
メールを使えば、営業先での失敗体験も瞬時に社内で共有できるが、「表情を見ながら、失敗談を聞いた方が記憶に残る。実際に会話があれば防げたミスも起きており、メールだけだと失敗体験が会社の財産にならない」という。
この試みはメディアの注目を集め、中国の国営テレビからも取材を受けた。手当をもらう社員は当初の20人から、今は全社員90人の4割に当たる36人まで増えた。社員の坂本たか子さん(23)は「スマホにしてから本を読まなくなった」と言い、契約期間が終わったらガラケーに戻すつもりだ。
岩田社長は「デジタル」を全否定しているわけではない。実際、「効率性を考えれば必要」と認め、出先で取引先と図面について話し合う営業マンにはスマホを支給している。大切なのは、使い分け。「社員が成長するには会話をしたり、新聞や本を読んだり、1人で物思いにふける『アナログの時間』の積み重ねが欠かせない」
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電気設備資材メーカーの未来工業(岐阜県輪之内町)では、営業マンの机にパソコンがない。安田啓司営業部長(56)によると、「お客さんの元に通うのが営業マンの仕事。でもパソコンがあると、メールを見たりするうちに時間が過ぎ、仕事をした気になる」と問題視されたためだ。
そこで約7年前、北海道から沖縄まで28カ所ある営業所に本社へパソコンを送り返すよう指示。顧客対応に必要な一部を除き約80台を撤去したところ、営業マンの外回りは1日当たり1~2時間増えた。
収益は順調に伸びており、取引先からは「他社の営業マンは、チラシを置いていくだけなのに、未来さんは違う」と言われることも増えた。安田部長は「営業の原点に立ち返り、当たり前のことをやっているだけ。しかし、それが他社との違いにつながっているのかもしれない」と話す。
◆スマホ接触時間
◆ガラケーの2倍
総務省の調べによると、ガラケーと呼ばれる従来型の携帯電話に接触する時間は1日平均で62分(屋内34分、屋外28分)。これに対し、スマートフォンは129分(屋内71分、屋外58分)で、実にガラケーの2倍に達する。スマホの世帯普及率は5割を超えており、スマホに時間を取られる人も増えているのが実態だ。
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