2014/03/19
最新号の巻頭グラビアは「お給料日」の特集だ。とある障害者福祉作業所の光景。うれしい、うれしい。手渡しの給料袋に皆が笑顔だ。
障害者の仕事と暮らしを応援する季刊誌「コトノネ」は、毎号笑顔であふれている。「実際、みんな本当にいい顔で笑っているので」。そう言うのは、同誌編集長の里見喜久夫さん(65)=東京都町田市=だ。2012年1月の創刊から、これまでに九号。発行部数は6,000部になった。
きっかけは東日本大震災だった。大手酒造会社などの商品を手掛けるデザイン事務所を営んでいた。目黒区の事務所で地震に遭った。スタッフの1人に福島県南相馬市の出身者がいた。食い入るようにテレビを見つめる顔を見て思った。「世の中は変わる。いや、変わらなければならない。では、自分は何を?」
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役員をしていた地元サッカーチームがチャリティー物産展を開いたことをきっかけに、集めた絵本を南相馬市の図書館に寄贈した。そこで、同市にある福祉作業所のスタッフと知り合う。被災時の模様を聞き、障害者が受けた差別に驚いた。
原発事故で避難を迫られたのに、行政が用意するバスに乗せてもらえなかった。スタッフが車を用意したが、向かった近隣の自治体でも受け入れを拒否された。ようやく入れてもらえた避難所でも、トイレ以外、割り当ての一室から外に出るなと言われた…。
「障害者は重荷だという負のイメージが社会にある。だから、なるべく負を排除しようとしてきた。でも、そうやって強い者しか生き残れない世の中にすることで、生きづらさを感じている人は『健常者』にも増えている」
同時に、障害者がすてきな商品をつくっていることも知った。知らないことばかり。もっと多くの人に知ってもらいたい。デザインの経験は豊富だし、絵本をつくったこともある。周囲に勧められ、創刊に踏み切った。
だから、同誌は障害者や関係者のものではない。「社会をたのしくする障害者メディア」を名乗る。「コトノネ」の名も、「事」「言」「異」という「コト」をありのまま受け止め、いい音色を響かせるイメージを込めた。「人間はだれもがハンディを抱え、それに挑むチャレンジャー。何かに挑戦するなら、障害者と健常者に隔てはない」
流通の最先端でもまれ、理想だけでは飯を食えないことは熟知する。障害者の経済的自立をテーマの柱に据えた。「懸命に売り上げを伸ばそうと努力する作業所も多い。そういう取り組みを後押ししたい」。今日も取材に走る。
◆季刊、定期購読も
「コトノネ」は2、5、8、11月の年4回発刊。2月発行の最新号の特集は千葉県・房総の施設を訪ねた「ちょっと足をのばして春探し」と「里山の障害者」。脚本家・山田太一さんのインタビューも掲載している。
次号は5月20日の発売予定。大手書店のほか、定期購読の申し込みもできる。問い合わせは「はたらくよろこびデザイン室」=電03(5794)0505、メールuketsuke@hatarakuyo.co.jp=へ。
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