2014/02/28
景気回復でも 正社員化は「狭き門」
今年の春闘で正社員の賃上げに追い風が吹く一方、非正規社員との待遇格差が深刻さを増している。景気が回復しても、企業が人件費を抑えようとする傾向は変わらず、正社員になるのは「狭き門」だ。デフレ脱却のためには雇用者全体の賃金引き上げが不可欠で、派遣社員の賃上げを模索する動きも出始めている。(白石亘)
◇ ◇ ◇
「安定した正社員として働きたい気持ちは変わらない。でも、世の中がなかなか受け入れてくれない」と嘆くのは、愛知県内の40歳の男性だ。交通量調査などのアルバイトでつなぎつつ、2年前から正社員を目指して「愛知わかものハローワーク」(名古屋市)に通うが、最近は年齢制限で引っ掛かることが増えた。
専門学校を卒業した時期が1990年代の「就職氷河期」と重なり、新卒で正社員になれなかった。主に派遣社員として、通信会社や家電量販店など6つの職場で働いてきたが、定着できずに「回り道をしてしまった」とうつむく。
今は実家暮らしで独身。「正社員でやってこれなかったので、婚期を逃した部分もある。出遅れ感が強い」と焦りをにじませる。
パートや派遣社員などの非正規は2012年に初めて2000万人を超え、雇用者全体に占める割合は38%に達した。愛知県では昨年12月に有効求人倍率が1・49倍で5年ぶりに全国単独首位になったが、新規求人数に占める正社員の比率は四割を切る過去最低の水準。同ハローワークの大久保欣史所長は「景気が良くなったのに、正社員の求人が少ないのはリーマン・ショックの影響かも」と表情を曇らせる。
実際、あるトヨタ自動車グループの関係者は「リーマン前は、生産ラインの派遣社員らをどんどん正社員に登用した。その結果、固定費が膨らんだ反省から、今は調整弁として非正規を活用する方針に切り替わり、よほど優秀でないと、正社員に採用していない」と内情を明かす。
国税庁によると、男性の非正規の平均年収は226万円。男性正社員の521万円の約4割の水準にとどまる。賃金水準が低い非正規の増加は、雇用者全体の賃金押し下げの要因になっている。
そのため非正規の待遇改善に向け、中部地方のある人材派遣会社は、派遣料金の引き上げを派遣先に働き掛け始め、一部で理解を示す企業もあるという。
連合も今春闘で、非正規の時給を30円(月給換算で5000円)を目安に引き上げるよう求める。連合総研の龍井葉二副所長は「主たる生計者にも非正規が増えている。正社員のように定期昇給もなく、消費税増税で生活していけなくなる。非正規の賃金底上げが重要だ」と訴える。
◇
◆愛知・三重
◆新規就職、過半数は非正規
円安で主力の自動車産業の業績が持ち直し、東海地方は景気の回復スピードで全国の先頭を走るが、愛知、三重の両県では、新規就職者のうち過半数が非正規だ。
2013年10~12月、愛知県内のハローワークを通した就職者(新規学卒者を除く)の内訳をみると、正社員約9200人に対し、非正規社員は約1万人で52%を占めた。三重県でも同時期の非正規比率は56%だった。岐阜県は43%で、まだ正社員の比率が高い。
景気回復期だった07年10~12月、愛知県の新規就職に占める非正規は約6400人で全体の38%だったが、4半期ベースではリーマン・ショック後の09年後半に50%を突破し、正社員を上回った。愛知県に集積する製造業は技能の蓄積などを重視する傾向が強く、正社員の雇用比率が他の業種よりも高い。しかし、同県の就業人口に占める製造業の割合は07年に28%だったが、13年には25%まで下がった。
愛知での非正規の増加について「リーマン後の円高で生産拠点の海外移転が進み、雇用の受け皿として、パートらを多く活用する外食や小売りなど非製造業の存在感が高まったことが影響した」(エコノミスト)との見方もある。
転職・求人情報検索(名古屋市・愛知県・岐阜県・三重県)はトップから