2014/02/21
1月下旬、後藤千夏さん(31)は愛知県豊田市の古民家修復工事の現場で動き回っていた。その姿は普通の現場監督に見えるが、実は本人も勤務先も極めて個性的だ。
2年前に入社した魚津社寺工務店(名古屋市中川区)は、寺や神社などの修理や調査を手掛ける。大工職人などの熟練の技と最新技術で、伝統建築物を守るユニークな会社だ。後藤さんも名古屋市立大や同大学院で芸術工学を学んだ。専門分野は茶室建築。
現場の古民家も由緒があった。豊田市寺部の領主・渡邊家の重臣、遊佐(ゆさ)家の建物で111年前に建てられた。「柱やはりはできるだけそのまま使いながら、今後も住居として使えるように直します」と説明した。
現場の前にある「遊佐家長屋門 附(つけたり)土塀」は市有形文化財。昨年の修理工事では後藤さんも現場監督の1人だった。
昨年7月から今年初めまでは、名古屋市東区にある市有形文化財「橦木(しゅもく)館」の洋館屋根に、優美なスペイン瓦をよみがえらせる改修工事があり、そこでも監督を務めた。1月13日には橦木館で工事の内容などを詳しく講演。理路整然とした話しぶりで、研究者の雰囲気を漂わせた。
日本建築には子どものころから縁があった。父親は名古屋市で材木店を経営し、ヒノキ材などを扱っていた。大学院で研究活動をしていたときに、同社の工事現場を見学したのがきっかけで入社した。
現場監督は、工程の管理や関係する人たちへの連絡などをする。研究活動では、茶室の土壁の色などを深く追究した。しかし、建物の造り方にはそれほど詳しくなかった。現場では、どういう部分を残すのか、建物の強度などとの兼ね合いから判断しなければならない。「職人さんから教えてもらうことが多い」と話す。
同社でも女性の現場監督は後藤さんともう1人だけ。現場で重い物を持ちにくいなどのハンディを感じることもある。ただ、朝から晩まで現場という生活を面白いと感じている。「何が起きるか分からないところがあり、毎日が文化祭という感じ」
(文・写真 白井康彦)
転職・求人情報検索(名古屋市・愛知県・岐阜県・三重県)はトップから