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【暮らし】NPOと学校法人、中小企業支援の試み〝課外授業〟で若手育成

2014/02/14

論理的思考学ぶ場 提供

 中小企業に魅力を感じて積極的に就職する大学生がいる一方、入社後に「社会で通用する力が身に付くのか」「同期がいない」といった不安を感じることも。企業側も新卒の若手に期待しつつも、人材育成に手が回らない事情もある。企業の枠を超えて、中小企業の若手の戦力化を目指す取り組みを取材した。 (稲熊美樹)

 平日の夜、名古屋駅前にあるグロービス経営大学院名古屋校に、入社1~5年目の中小企業の若手約20人が集まった。経営研究科副研究科長の村尾佳子さんが「今日はマーケティングの基礎の基礎。講義で何を得たいですか」というと、次々に手が挙がる。

 研修ではシャンプーの市場を例にヒット商品誕生の理由を考えたり、たわしを題材に、どうすれば売り上げが増えるかを話し合ったり。受講生同士や村尾さんと意見交換しながら「売れる仕組み」を考えるための理論を身に付けていく。

 研修は同校と岐阜市のNPO法人G-netが共催し、昨年11月に初めて開講。5回の連続講座(有料)で、論理的な思考法など実務に生かす基礎的な理論を学ぶ。10年後を見据え、いつどんな力を身に付けたいかも考えていく。

 G-netは大学生を対象に中小企業でのインターンをあっせんし、その魅力を体感した上で就職する人材を支援してきた。だが、就職後の人材育成の仕組みが十分でない会社もある。そこで経営学をはじめ、企業の実務に関する教育や研修を手掛ける大手の学校法人グロービスと連携。グロービス側も「地域を支える中小企業は大事な存在。地域の活性化に貢献したい」と協力した。

 村尾さんによると、現在のグローバル市場では環境変化も激しく、先輩社員が若手に教えられない事柄も増えている。「社内だけではなく、社会でも通用する人材なのかどうか、判断材料もない」と、不安になる若手社員が多いという。

 研修に参加した氏原翔平さん(22)も「地元出身という自分の強みを、発揮できていないのではないか」と悩んでいた。三重県紀北町の「ホテル季(とき)の座」に入って1年目。宿泊客に「町に興味を持ってほしい」と試行錯誤する最中に研修を受けた。受講後、写真展示の仕方などを変えてみると反応がよく、効果を実感し始めている。

 将来の働き方や、やりたい仕事内容を考える上で「この人のようになりたい」と感じる先輩社員が少ないのも、中小企業ならではの悩み。三井食品工業(愛知県一宮市)入社1年目の谷早織さん(26)は「家庭と仕事を両立させたい」というが、身近にモデルとなる先輩がいない。「結婚して子どもを産んでも、会社に求められる人材に早くなりたい。でも会社で求められる力とは何なのか分からず、不安だった」と振り返る。

 現在は漬物などの商品開発を担当。研修で教わった思考方法で上司に自分の考えを説明したところ、スムーズに進んだという。社内でどんな力を求められるかも考えられるようになってきた。

 村尾さんは「入社後しばらくは、その後の人生への影響が大きい。さまざまなことを考えるための道具として、知識や考え方を学ぶ時期」と指摘。20代のうちに「自分が何をしたいかを知り、自分らしさや強みを知ること。相手の話を聞き、論理的に考え、自分の伝えたいことを分かりやすく伝える-といったコミュニケーション能力を身に付けてほしい」と話す。

◆指導できる人材不足

 中小企業側は人材育成に手が回らないのが実情だ。経団連が2010年に公表した「中小企業を支える人材の確保・定着・育成に関する報告書」によると、企業側が感じる人材育成上の課題として、「指導や育成ができる人材が不足している」との回答が最多で67・7%に上った。「時間的な余裕がない」(59・7%)「次世代の経営幹部層の育成がうまくいかない」(35・5%)などが続く。「指導・育成していくノウハウがわからない」(25・3%)という企業もあった。

グループで意見を出し合う受講生ら=名古屋市中村区のグロービス経営大学院名古屋校で
グループで意見を出し合う受講生ら=名古屋市中村区のグロービス経営大学院名古屋校で