2014/01/31
エイズウイルス(HIV)の感染を隠さずに働ける職場での取り組みを、昨年12月27日付本紙で紹介したが、感染を明らかにしたことで、退職を余儀なくされたという男性が証言を寄せた。社会の偏見や差別はまだまだ根強く、「社会が変われば理想だが、現実は厳しい」と、新たな職場では感染を伏せて仕事を続けている。
証言したのは首都圏在住の20代男性。2012年9月に感染を知った。HIVは感染しても薬を服用することで、健常者と同じように働ける。2、3カ月に1度の通院は必要だ。
男性は横浜市磯子区の設計会社の社員として、重工系大手に派遣されていた。男性はHIV感染は伏せ、病気のため2、3カ月に一度、有給休暇を取る旨を上司の課長に伝えた。
だが、課長は病名を明らかにしなければ異動になると答えた。やむを得ず、男性が感染を打ち明けると、会社は男性を派遣先から本社に異動させた。
男性によると、本社の部署では「隅の席を与えられ、仕事もろくになかった」という。男性は社の総務部長に抗議し、元の派遣先に戻ったが、昨年春に退職した。「自主退職の形だが、上司への信頼も崩れ、ここでは仕事は続けられないと思った」という。
現在、男性は転職し、残業や泊まりがけの出張もこなすなど、他の社員と同様に働いている。「会社に理解があるか、給料に影響はないか、個人情報保護は十分かなど、感染を明らかにすることには懸念がある。健常者と同等に働きたいので、感染のことは伏せる方がベターだと思う」と男性は言う。
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本来、勤務先にHIVの感染を明らかにする義務はない。病名を明らかにしなければ異動とした点について、設計会社側は「病名が不明では、(派遣先の)顧客への業務の支障や、感染のリスクが不可測。顧客に迷惑を及ぼすことを危惧した」と言う。
だが、男性は感染を告げて異動させられた。会社側は産業医に確認し、「ごく限られた感染リスクしかない」とは認識していたが、「HIVそのものより、本人の健康状態と、これによる業務停滞、顧客への迷惑を危惧した」と説明している。
厚生労働省のガイドラインでは、「HIVに感染していても健康状態が良好な労働者は、その処遇において他の健康な労働者と同様に扱うこと」と、感染を理由にした不利益な処遇を禁じている。
感染者らの相談を受け付けている「HIVと人権・情報センター」の川添昌之理事は、「会社の対応は厚労省のガイドラインに反している。感染力も極めて弱い上、近年はいい薬が出てきて、仕事も普通にできるようになった。危惧するような『迷惑』などあり得ない」と指摘する。
同センターへの相談でも、職場で感染を明かした途端に閑職に追いやられ、やりがいをなくして自分から辞めていくという事例が多いという。センターの今井文一郎相談員は、「今の管理職の世代は、約30年前の『エイズパニック』時の『悲惨な病』というイメージがこびり付き、状況は当時と全く違うことも、学ばないまま過ごしてきた人が多い」と解説する。
今井さんは「感染者は明らかになっているだけで、2万人を超えている。優秀な人材を失わないためにも、あらゆる企業が受け止めていくべき問題だ」と話している。
(三浦耕喜)
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