2013/12/30
見込みの残業代をあらかじめ給与に盛り込む「固定残業代」を悪用したサービス残業(残業代未払い)の違反が昨年、東京や愛知など10都道府県で計1343件あったことが本紙の調査で分かった。いくら働いても見込み分の残業代しか支払わなかったり、見込み額をあいまいにして残業代をごまかしたりしていた。
固定残業代の悪用は低賃金・長時間労働の温床となり、専門家は働く人を使い捨てにする「ブラック企業」の手口と指摘、近年トラブルが相次いでいる。厚生労働省は問題を把握しているが、統計は取っておらず、実態は明らかになっていない。
調査は、企業の本支店や工場など全国の事業所数の5割以上を占める東京、大阪、愛知、北海道、埼玉、千葉、神奈川、静岡、兵庫、福岡の10都道府県を対象にした。昨年1年間に残業代の不払いを禁止した労働基準法37条に違反した事業所のうち、固定残業代に絡んだ労働基準監督署の是正勧告書と指導票を情報公開請求した。
開示文書を集計すると、固定残業代に絡む違反が最も多かったのは東京で250件、次いで愛知が221件、大阪が193件だった。各都道府県とも、残業代の未払い総数に占める割合は1割ほど。愛知は2割弱と最も高かった。
サービス残業と併せて長時間労働も指導された事業所は計418件に上った。固定残業代に絡む違反全体の3割強にあたり、長時間労働を助長しかねない制度の問題点を裏付けた格好だ。
残業を見込んだ仕組みにもかかわらず、残業をさせるために必要な労使協定書を労基署に届け出ていない事業所も3割強に上った。
違反の多くは労基署の調査で、パソコンの利用記録などから実際の労働時間が判明して裏付けられた。
固定残業代について厚労省労働基準局監督課の担当者は「サービス残業が発生しやすいシステムとは認識している」と説明。「問題があれば労基署の指導監督で個別に対応するもので、現時点で規制や実態調査の予定はない」と話している。
◆国は実態調査を
◆ブラック企業被害対策弁護団代表・佐々木亮弁護士の話
定額で残業代を払えば、「これ以上残業代を払う必要がない」として時間管理を怠る企業が多く、実際の残業時間が残業代に見合っているのか分かりにくい。残業代のごまかしにつながる上、働かせ放題という結果を招き、過労死の温床になる。給与に残業代が含まれるため、給与を水増しした格好になり、就職先を選ぶ学生への影響も大きい。これだけの数の違反があるのなら、厚労省は実態を調査して警鐘を鳴らし、予防に努めるのが筋だろう。
【固定残業代】
見込みの残業代をあらかじめ給与に盛り込んで支払う方法。定額残業代ともいう。残業代の支給事務を軽くしたり、残業代を抑えたりできるとして普及したとされる。事業者は見込みの残業時間を超えて働かせた場合、超過分を払わなければならないが、「既に支払っている」と超過分をごまかす不当な運用が後を絶たない。求人広告で固定残業代を明記せず給料を実際よりも多く見せるケースもある。
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