2013/12/11
入りやすく働きやすい美容院を
「毛先まで気を抜かないで」「手だけじゃなくて、こうやって体も一緒に動かして」。名古屋市北区の美容室「ヒオキマサオ」代表の日置雅夫さんが、閉店後に練習を重ねるスタッフに、身ぶり手ぶりを交えながら声を掛けて回る。ときには、スタッフのブラシやドライヤーに手を添えて、直接動きを指導する場面も。
「若いスタッフばかりのお店では、こういうことはやりません。ここでは、求められるから」。勉強会は毎週開いている。
店は10月、住宅街にある地下鉄駅近くにオープン。夏までは同じ場所で、日置さんが別の美容室を経営していたが、移転を機に新たな活用法を模索。「高齢の美容師が経験を生かして働く姿を見せ、同世代に勇気を与えたい」と、おしゃれ心を持ち続ける高齢者が集える美容室を開くことにした。
美容師になったのは、まだ男性が珍しかった50年以上も前。名古屋一の繁華街・栄に「日置美容室」を構えて、最先端の流行を追い、最上のもてなしを追求してきた。若者向けの店も開き、市内に五店を開いたが、「生活環境や年齢で美容室選びは変わる。高齢者が入りにくい店もある」と感じてきた。そこで「地域に開かれ、幅広い年齢層から信頼を寄せてもらえる店を」と、76歳で新店を開く決意をした。
店長は神田美恵子さん(63)。長年、別の店で店長として腕を振るってきたベテランだ。他の美容師は全員パートタイマー。定年後や出産、子育てなどを理由に美容の仕事から長く離れていた元専業主婦たちだ。
約10年ぶりにこの仕事に戻ってきたスタッフの女性(60)は、「自分の母親世代の人に喜んでもらえるサロンがあればいいな」と日置さんの理念に共感。「仕事中は自分の年齢を忘れてしまいます」と、楽しみながら働いている。
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スタッフには都合のいい時間に働いてもらう。小学生の子どもがいて、平日の限られた時間しか働けない人もいる。
しかし、こうした働き方は美容業界では異例だ。週末や平日の夜が書き入れ時の美容室では、それに合わせた働き方が一般的だ。
実際、日置さんが手掛けてきた他の美容室では、閉店後に夜な夜な練習に励み、土日もフル回転で店に立つ美容師ばかり。新店では「それぞれの経験を生かしてほしい」と、働き方に制約のあるスタッフを採用した。
「ヘアだけでなく、ネイルやメークも任せてもらいたい。ジムの設備も備えたいし、料理や健康の話をしてもらえる講師を招き、地域の人たちの交流の場にしてほしい」と、夢は膨らむ。
「心からのおもてなしで、お客さまをお迎えしたい」。この一心で、日々店に立っている。 (稲熊美樹)
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