2013/11/01
解雇や中途退社で職を失った人たちが、再就職に向けて技能を磨く職業訓練。さまざまな内容があるが、民間の教育機関の中には、技能習得だけでなく精神面のサポートに重点を置いている教室がある。求職者は講師や仲間からの支えを受けながら、悩みや不安を乗り越え、再就職を目指す。
「ストレスを抱えていたら、この場で言ってください」
20代を中心に男女八人の生徒が机を並べる岐阜市の教室。講師の玉田由美さん(48)が、生徒に呼び掛けた。
「就職の悩みは、他の人に言っても立場が違うから、なかなか理解してくれません。ここにいる仲間か、私に言ってください。家族は心配だからいろいろ言います。でも気にしないで、今はとにかく教室に通うことだけ考えて」
教室は岐阜市と名古屋市の2カ所でパソコン訓練をしている財団法人・ソーシャルサービス協会ITセンターが開く。職業訓練の期間は4カ月。始まって1週間のこの日は、まだ生徒の間によそよそしい雰囲気が漂う。玉田さんは、打ち解けた雰囲気づくりを心掛けながら指導する。
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職業訓練は厚生労働省や都道府県が実施し、民間委託もある。ハローワークで相談し、就職に必要と判断されれば、ものづくりやパソコン、介護など多くの技能を学ぶことができる。テキスト代など一部の費用は必要だが、受講は無料だ。
同センターは岐阜県などの委託を受けて2001年、ワードやエクセルの基本操作を指導する訓練コースを岐阜市で始めた。職業訓練の一環として、精神面のサポートに力を入れ始めたのは09年から。リーマン・ショックなどで景気が後退し、再就職の厳しさに悩む人が増えたからだ。
生徒はごく普通の人たちで、年齢も20代から60代と幅広い。会社を辞めた理由も社内のいじめ、過大なノルマ、環境になじめなかったなど、いろいろだ。「仕事を辞めた人は周囲に責められたり、自分を責めたりして罪悪感を持っている。再び社会に出る前に、心の準備も必要。まずは話を聴き、あなたは悪くないと受け入れます」。岐阜、名古屋両市の同センター所長を務める玉田哲雄さん(57)は説明する。
講師は授業のほかに生徒と1対1の面談や相談を受け、生徒が心を開くのを待つ。さらに教室内で生徒同士が仲間づくりをするのも後押し。少人数のグループに分かれ、無人島に遭難したらどうするかなどのテーマで話し合ったり、時事問題について議論をしたり。議論の結果は発表。毎回、グループのリーダー役と発表者を替え、必ず全員が経験するようにする。最初は目を合わせて会話ができなかったり、人前で発表できなかった生徒も、徐々にできるようになっていく。
玉田所長は「この小さなクラスで友人関係ができなければ、社会でもできない」と話す。
引きこもり経験を持つ生徒もいる。20代の女性は当初は誰とも話さず、発表をするまで30分かかるほどだったが、講師が外に連れ出したり、悩みを聴いたりして少しずつ自分のことを話すようになり、最終的には就職を決めた。
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今年5月からは卒業生が毎月集まり、レクリエーションを楽しみながら近況を語り合う会を設けた。せっかく就職しても中途採用として新卒と区別されたり、年下が先輩だったりして嫌な思いをし、すぐに辞めてしまう生徒がいたため、話し合うことでストレスを軽くしようと企画した。
発案したセンターの服部真紀さん(33)は「社内では言えない本音を語り合って、生徒も気持ちが落ち着く。就職が決まっていない生徒は頑張ろうという気持ちになる」と話す。センターに通った元幼稚園教諭の女性(55)は「退職して身も心も疲れていたとき、時間をかけて丁寧にアドバイスしてくれた。自信を取り戻し、明るい方向に導いてもらえた」と振り返る。
玉田所長は「働いて幸せと感じてもらうことが目的。生徒がいつでも来られる母校でありたいと思っています」と話した。
(寺本康弘)
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