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【暮らし】「雇い止め」着地点どこに 改正労働契約法施行から半年(上)

2013/10/18

◆ハウス食品元嘱託社員ら、雇用継続求め団交

 ハウス食品に雇われ、全国のスーパーなどで商品の陳列や補充を担う「店舗フォロー業務」に携わってきた嘱託社員89人が、営業体制の改革のために9月末で一斉に雇い止めとなった。一部の人は「ハウス食品ユニオン」を結成し、今年4月に施行された改正労働契約法を盾に同社と団体交渉を続けているが、双方の主張は平行線のまま。リストラの調整弁になるリスクを負いながら働く、非正規労働者の問題を2回に分けて考える。

 「雇用を守るのは正社員だけなんですね」

 「私たちは弱い立場。それでも社員と一緒に20年も仕事をやってきました。一斉の解雇ではなく、もう少し大事にすべきじゃないですか」

 9月下旬、東京都内にあるホテルの会議室で開かれた団体交渉。これまで長期にわたり、反復更新されてきた雇用継続を求め、嘱託社員の女性らの訴えが響いた。

 店舗フォローは、主に量販店に特化した限定職種。商品販売スペースの確保など来店者の視点を生かした販売促進を担う。ハウス食品は、10月からの持ち株会社体制移行に伴い、営業体制を大幅に変革。通信販売の増加など、顧客の買い場の多様化に対応した営業活動をするため、店舗フォローの外部委託を決めた。

 嘱託社員に「最終の雇用契約」が告げられたのは半年前の3月下旬。委託先へ再就職後の1年間は給与などの待遇を維持するとし、その後は個人事業主として働くことに。安定収入が見込めなくなるため、20人が「一方的な切り捨ては不当」と、4月に労組を結成し、従来と同条件での雇用継続を求めて、団体交渉を続けてきた。

 これに対し、社側は「9月末で、この嘱託の仕事はなくなる。それ以外の解決策を」と繰り返した。結局、契約終了に伴う金銭補償や、委託会社での仕事の待遇についての話は、計8回の団交でほとんど進まず、雇用について「ゼロか100か」の議論は、ついにかみ合わなかった。

 「皆それぞれ家庭の事情を抱えている。個人事業主になるなんて、とても対応できない」。勤務23年の女性(50)は、不安を募らす。住宅ローンを抱えた男性や、大学受験を控えた子のいる母子家庭も。嘱託社員の相談を受け、団交を支援している派遣ユニオン(東京)の関根秀一郎書記長は、「雇用継続は全く検討されず、事実上の団交拒否だ」と非難する。

 ハウス食品は、嘱託での雇用継続ができない代わり、契約終了後の激変緩和策を提示。当初、委託先への再就職後の待遇を1年間維持するとしていたが、2年間に延長した。委託先への再就職を希望しない場合でも、規定の退職慰労金を積み増して対応する方針。だが、雇用継続をめぐっては両者の溝は深いままだ。

◆“合理的理由”めぐり対立
 雇用継続を求める労組側は、改正労働契約法の19条で認める労働者の権利を主張。有期契約を反復更新している場合、使用者は合理的な理由なく雇い止めができないと、規定されているからだ。

 しかし、ハウス食品は「嘱託社員の契約終了は、商品の販売環境の変化に対応するための、新たな営業体制の構築によるもの。単なる期間満了による雇い止めではない」と反論する。十分な合理性があり、法には抵触しないという考えだ。

 同法は雇い止めの理由について、「社会通念上相当である」ことを求めているだけで、具体的な判断の規定そのものはあいまいになっている。

 さらに、こうした論点を法的に集団で争うことの課題もある。企業の労働法務に携わる弁護士は、「雇用の継続を求める訴訟では、労働者の契約実態について、それぞれ個別に判断するため、対象者の多い今回の事例では、現実的ではない」と指摘する。お金と時間と労力をかけて個人で裁判するほど、元嘱託社員たちの生活に余裕はない。

     ◇

 袋小路に入って追い詰められる非正規労働者たち。その背景にどんな要因があるのか、より良い選択肢はないのかを、次回(25日付)考える。

 (林勝)

嘱託雇用の契約終了後、「不当解雇」を訴えハウス食品グループ本社前で抗議活動をするユニオンメンバーら=1日、東京都内で
嘱託雇用の契約終了後、「不当解雇」を訴えハウス食品グループ本社前で抗議活動をするユニオンメンバーら=1日、東京都内で