2013/09/27
ガソリンスタンドが倒産し、解雇を告げられた従業員たちが、労働組合を中心に再建に取り組んでいる。売り物のガソリンも仕入れられない苦境を経て、その第一歩を踏み出した。
「ありがとうございます!」
道路に出る車にスタッフが声をかける。車の姿が小さくなるまで見送り続けた。東京都府中市にあるガソリンスタンド「イー・レボリューショナリー」。ひいきにしているという地元の女性(64)は、「皆親切で一生懸命。ガソリンが入れられるようになって、本当によかった」と笑みを浮かべた。
店の旧経営者が会社の倒産、解雇を告げたのは今年1月末。残業代の未払い問題などもあり、従業員が労組をつくり、団体交渉をしている最中の出来事だった。職場を奪われる危機に、労組のメンバーは泊まり込みで店を占拠し、自主的に営業を続けた。
「ですが、客に『ガソリンはないんです』と言わなければならなかったのは、つらかった」と言うのは、新会社代表の高橋顕夫(あきお)さん(41)。旧会社が倒産したことで、ガソリンの仕入れ先を断たれた。大手石油会社は即座に看板を撤去。しばらくは洗車と簡単な整備しかできなかった。
再建に不可欠だったのは、店の確保とガソリン取引の再開。土地や建物などは破産管財人に握られている。法的に認められるには、入札で競り落とさなくてはならない。幹線道路沿いにある店は優良物件とあって、価格は2億円近いとも評価されていた。
ガソリン取引にも運転資金が要る。大口の固定客はまとめて月末、翌月末払いが多い。資金を回すには3000万円はほしいところだ。
金融機関はどこも貸してくれなかった。「破産事件扱いで論外という対応でした」と高橋さん。再建は頓挫するかに見えた。そこで現れたのが東京都内で不動産業を営む篤志家だった。かねて労働運動を支援してきた。物件はその人物が落札。店が賃料を払うことで落着し、運転資金も借りることができた。
高橋さんらは今年6月に新たに合同会社を設立。経済産業省の認可、消防の検査もクリアし、八月のガソリン販売開始にこぎ着けた。アルバイトを含め、八人からの再出発だ。「自分たちで会社を起こすことで、お金の流れに敏感になった。給料も皆で話し合い、以前の待遇を維持しています」と高橋さん。今後は修理のできる工場の認証も受け、業務の幅を広げる考えだ。
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企業が倒産した後、労組が自主営業を続ける例は少なくない。だが、取引関係など経営に必要な情報や、店舗などの施設は経営者側に握られている。仕入れや資金繰りに行き詰まり、再建は難しいのが現実だ。
高橋さんらを支えた東京管理職ユニオンの鈴木剛(たけし)書記長は「今回は従業員が取引関係に至るまで、仕事を把握していたことが大きかった」と評価する。「要求することで終わりがちな労組から、どう頭を切り替えられるかも成功の鍵となる。経理に詳しい人材も必要だ」という。
一方、資金については「今回は幸運だったが、特定個人の善意に頼るのは限界がある」と指摘。「特に地元に根差す中小企業の倒産は、地域に重大な影響を与える。欧州にあるような、従業員による企業再生を促す融資制度を、日本も整える必要があるのではないか」と話している。
(三浦耕喜)
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