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【社会】モンスター社員 増殖 叱れない上司も一因

2013/09/22

1日中ネット 後輩いじめ わがまま放題

 いじめや嫌がらせで同僚をうつに追いやる、働かない…。非常識な行動で周囲に多大な迷惑を掛ける「モンスター社員」に悩む企業が増えている。こうした社員の「解雇指南セミナー」も盛況だ。ただ問題があるのは社員だけではなく、企業の人を育てる力の低下も一因との指摘がある。

 ▽クラッシャー

 都内の中堅企業に勤務する女性(32)は2008年に入社後、先輩女性のパワーハラスメント(パワハラ)に悩まされた。教育係なのに質問しても「今話しかけないで」と無視。「目が大きければ美人なのに」と容姿や学歴をあげつらう。女性はうつ病で3カ月間休職した。

 先輩の部下2人がこれまでに辞めていた。女性は、部下をうつに追い込む社員を指す「クラッシャー」という言葉を知り、「まさに先輩のことだと思った」と語る。

 都内のIT企業に勤める女性(34)の上司は予算管理など中核業務を担当するが、1日中インターネットのサイトを閲覧し、働かない。急な欠勤も多く、仕事は職場の座席表作成や弁当発注など雑用だけ。女性は「彼の仕事まで押し付けられ、周囲はうんざり。職場の責任者も、降格させたいと言いながら『組合問題になる』と踏み切らない」と憤る。

 「社内研修が夏休みと重なったら研修日を変えろとねじ込んだ」「書類のシュレッダーしかしない」…。さまざまなモンスターが職場に〝出没〟している。

 ▽解雇指南

 TOMAコンサルタンツグループ(東京)が7月、大阪で開いた問題社員の「正しい辞めさせ方」セミナーに、中小企業経営者ら約100人が詰めかけた。講師で同グループの麻生武信副理事長は「予想以上の申し込み」と驚く。東京のセミナーは定員の倍の応募があることも。大手金融コンサルタント会社なども同種のセミナーを開く。

 セミナーの多くは問題社員に指導や業務改善命令、配転を重ね、解雇回避の努力を尽くしたという証拠を積み上げた上で解雇するよう指南する。

 労働契約法は「客観的、合理的理由のない解雇」を無効と定める。客観的にやむを得ない解雇だという証拠を重ねれば、労働者が訴訟を起こした際に、解雇無効の判決が出るリスクを減らせる。

 政府の産業競争力会議で一時、解雇規制の緩和が議論された。産業界が規制緩和を望む背景に、モンスターの存在もあるようだ。

 しかし企業は純粋な被害者とは限らない。人事コンサルタントの松下直子氏は「企業の〝叱る力〟の衰えがモンスターを育てる一因」と話す。

 以前と比べ社員同士の人間関係が希薄になった上、正社員が減って1人当たりの仕事が増え、部下の育成に十分手が回らなくなった。上司は部下を本気で指導せず、評価も同僚と横並びにしがちだ。問題行動を正すのではなく、部署のたらい回しで当座をしのごうとする。

 社員は反省の機会がないため「これでいい」と考え、問題行動をエスカレートさせる。松下氏は「企業が社員ときちんと向き合い、育てる意識を持てば、モンスター化はかなり防げる」と話す。