2013/08/16
職場の理解で可能性広がる
「障害者雇用促進法」の改正で、障害者雇用のニーズが高まっている。千葉県では、人材派遣会社で就業体験をした障害者を企業につなぐ、きめ細かな支援が成果を挙げている。だが、企業で働く障害者の実雇用率は1・69%にすぎず、障害への理解や担当業務の創出など、企業にとって壁は大きい。
金属部品メーカー、日立粉末冶金(やきん)(千葉県松戸市)の人事総務部。割貝(わりがい)壮一郎さん(24)がパソコンで、永年勤続表彰社員の名簿を確認していた。割貝さんは幻聴や幻覚などの症状に悩まされ、大学を中退。統合失調症と診断され、2年前に精神障害者保健福祉手帳(2級)を取得。病気を公表して就職活動を始めた。
昨年8月、千葉県の障害者就業体験雇用促進事業を受託する人材派遣のパソナ(東京)の研修生となった。障害者雇用に配慮したパソナグループの特例子会社、パソナハートフル(東京)でビジネスマナーなどの基礎知識を学び、印刷や発送などの仕事も体験。昨秋から日立粉末冶金で働き始め、今年2月に契約社員となった。
週5日、1日約8時間勤務。当初は郵便物の仕分けなど単純作業をしていたが、今ではパソコン業務も任され、着実にスキルアップ。1日3回の服薬と月3回の通院をしつつ、欠勤することなく、同県柏市から約40分かけて通勤する。「学生時代より生活が規則正しくなり、体調もいい」と社会復帰がプラスに働いた。
職場の先輩でサポート役の奥野宏平さん(26)は「幻聴の症状が出ても、状況を伝えてくれる。仕事に支障はない」と話す。上手に休憩しながら、得意のパソコン作業をする割貝さんの仕事ぶりに、「想像以上」と周囲の評価は高い。
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同社は約30年前から身体障害者を中心に、障害者を雇用してきた。だがここ数年、法改正も見据え、大企業を中心に障害者雇用を検討する企業が増え、ハローワークでも希望する人材を確保できない状況に直面。そこで初めて精神障害者の雇用を検討し、パソナハートフルで精神障害者の仕事ぶりを見学、採用を決めた。
人事総務部の横沢孝弘部長代理(44)は「うつや統合失調症の病名は知っていても、障害の程度で働けることすら知らなかった。実際に働く姿を見るのが、理解を助ける近道になる」。
千葉県では障害者全体の就職率が30%程度だったが、パソナとの事業では2011年度が66%、昨年度が83%、本年度も80%以上の就職率を見込む。同県の担当者は「障害者を就職につなげ、定着させるには地道な支援が必要。地域の支援機関とも協力しながら進めたい」と話す。
◆「強み」生かせる業務に
厚生労働省によると、ハローワークを通じた障害者の就職件数(2011年度)は約6万件と過去最高を記録。特に、精神障害者の新規求職申込件数、就職件数が、急増している=グラフ。
今後、障害者を雇用する企業の心構えとして、パソナハートフル取締役の白岩忠道さんは「障害があるから配慮」ではなく、「障害があるゆえの強み」ととらえ、障害特性に合った業務を社内で集めることを勧める。就労経験がある人が多いのが精神障害者。パソコンのデータ入力や文具の管理、発注など、短時間から少しずつ勤務時間を延ばす。通院や服薬が可能な環境を整えれば、本人も安心して働ける。
在宅や就労支援機関など「福祉」にいる障害者は多い。「いかに企業就労へ動かすかが鍵」と白岩さんは強調する。
(福沢英里)
【改正障害者雇用促進法】
民間企業(従業員50人以上)で、全従業員の2・0%以上の障害者雇用の義務化や、職場で支障なく働けるよう配慮することなどが盛り込まれ、6月に成立した。施行は2016年4月。精神障害者雇用の義務化では、身体・知的障害者に比べて企業で働く数が少なく、受け入れ態勢も不十分なため、5年後の18年4月施行となる。
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