中日新聞CHUNICHI WEB

就職・転職ニュース

  • 無料会員登録
  • マイページ

【経済】仕事を拓く/若い民からの成長戦略 途上国産の宝飾品を販売

2013/07/30

白木夏子 31歳
人を幸せにする貿易に

 白と茶色のまだら模様の不思議な輪っかたち。どれ1つ同じ物はなく、人の手で磨いた温かみがにじむ。

 「これを1本作れば笑顔になる人が増えるんです」。アフリカ・ルワンダ産の牛の角で作ったネックレスを手に白木夏子(31)は語る。宝飾品会社「HASUNA」の社長兼チーフデザイナー。内戦で親を亡くした若者らが技術を取得できるよう設立された工房から取り寄せた。

 人の暮らしや自然環境に配慮した宝石を作る「エシカル・ジュエリー」のブランドを2009年に日本で初めて創設した。

 英国で貧困問題を学んでいた21歳の時、インドを訪れた経験が原点だ。最も悲惨だったのが宝石の鉱山。児童労働が横行し、10キロもある荷物を運ばされ、背中が曲がった5歳の子もいた。輝きを失った暗い目…。「宝石は私たちの生活を明るくするもの。このギャップは何?」。美しさの裏の不条理な現実に衝撃を受けた。

 帰国後、金融業界にいったん就職したが、「ビジネスを通じ世界を変えよう」と決めた。まず宝石を直接買い付ける手掛かりを求め、東京・御徒町の宝石問屋街へ。手当たり次第「この宝石が採れた鉱山には、どうやったら行けますか」と聞き回ったが、「分からない」との答えばかり。宝石流通は欧米ブランドが支配し、多くのブローカーを介する。よそ者には入り込めない世界だった。

 「スーパーの野菜でも作り手の顔が見える時代なのに高価な宝石の生産者が見えないのはおかしい」。業界の「常識」に疑問を持ち、世界中の友人に「鉱山労働者や宝石職人さんを紹介して」とメールした。「村人の自立のための工房がある」と聞くと、自分の目で確かめるためどんなへき地にも飛んだ。

 パキスタンでは崖っぷちの細い悪路を二日かけて走破し、宝石を研磨する女性職人に会いに行った。当初は日本で売れる品質でなかったが、「彼女らの可能性を信じよう」と二年かけて技術を引き上げ、輸入にこぎ着けた。女性職人らの月収は以前の三千~四千円から倍になった。

 昨秋、一児の母になった白木は国際会議に招かれるなど活躍は広がる。東京・南青山、名古屋など三店舗を十年後に海外を含め二十店に増やす目標だ。

 「人を幸せにする貿易」を目指す挑戦。環太平洋連携協定(TPP)など自由貿易だけでは生産者も消費者も豊かになりきれない限界を浮き彫りにする。「宝石をどうカットし、どう組み合わせるかがデザイン。でも私にとっては鉱山から消費者に渡るまで誰がどう関わっているか、すべての過程がデザインなのです」

 社名の元になったハスの花のような「真の美しさ」を広めるため、旅はまだ続く。(白石亘、敬称略)

    ◇

 しらき・なつこ 愛知県一宮市に育ち、南山短大卒業後、英ロンドン大学で開発学を学ぶ。09年にHASUNA設立。世界経済フォーラムから日本の若手リーダー30人にも選ばれた。

    ◇

【鉱山での児童労働】
 鉱山で働く5~17歳の児童は国連推計ではアジア、アフリカなど世界で約100万人。原石から金を取り出すのに使う水銀は神経系障害を引き起こす恐れがあり、「最悪の児童労働」といわれる。

エシカル・ジュエリーを前に設立の経緯などを話す白木社長=東京都港区南青山のHASUNAで
エシカル・ジュエリーを前に設立の経緯などを話す白木社長=東京都港区南青山のHASUNAで