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【暮らし】<天職ですか> 氷彫刻師・平田浩一さん

2013/07/26

 四角い氷の塊にチェーンソーを豪快に入れる。「氷相手なので時間との闘い」と氷彫刻師の平田浩一さん。ノミやドリルも駆使し、10分ほどで白鳥の頭と2枚の羽が現れた。

 ホテルニューオータニ(東京都千代田区)の氷彫刻室長。氷彫刻は主に料理卓を飾るオブジェに使われ、シェフが彫刻も担当することが多い。専門の氷彫刻師がいるホテルは、国内でも数えるほどという。

 オブジェは高さ1~2メートルがほとんど。直方体の氷を作品に合わせて使う。高さ1メートルの基本のブロックを丸々使うこともあれば、切り分けて積み上げることも。「高さ1メートルほどの慣れた題材なら3、40分で仕上げます」

 たった1人の氷彫刻師として、オブジェや結婚披露宴で出される氷の器などをすべて手掛ける。披露宴用のバラやハートの形のオブジェ。テニス好きの夫妻の依頼でラケットを彫ったことも。企業のパーティーではロゴマークや社長の顔を依頼されることが多い。宴会は3時間は続くので、溶けても美しい姿にこだわる。例えば、白鳥の首は細い方が美しいが、溶けるのを見越して太めに作る。

 平田さんをこの道に誘ったのは、東京都内の別のホテルで氷彫刻師をしている父親の謙三さん(70)。進路に迷っていた20歳のころ、「やってみないか」と言われ、5年ほど父の下で修業。その後、「コンテストに出すような大きな作品にも挑みたい」と氷彫刻専門の会社へ。朝から晩まで防寒着を着て冷凍室で彫った。そんな武者修行を5年続け、父の下へ戻った。

 2003年にニューオータニへ。ホテルの仕事以外にも、数々のコンテストに出場し、優勝の常連。中でも北海道旭川市で毎年開かれている「氷彫刻世界大会」では個人、団体での出場を合わせ、計13回グランプリに輝いている。

 木や発泡スチロールなどの彫刻の経験もあるが、「氷を削る爽快感は格別」。完成した瞬間から溶け始める氷。「形をとどめないそのはかなさも魅力です」

 (文・宮本直子、写真・高嶋ちぐさ)

結婚披露宴用の白鳥を彫る氷彫刻師の平田浩一さん=東京都千代田区のホテルニューオータニで
結婚披露宴用の白鳥を彫る氷彫刻師の平田浩一さん=東京都千代田区のホテルニューオータニで