2013/07/12
「自信につながる」と好感触
職業認知度の向上狙う
放課後の小学生を預かる学童保育(放課後児童クラブ)で働く指導員の資格制度を設ける動きが広がっている。現行の国の施策では指導員に求められる資格はない。子どもが安心して生活できる学童保育をつくるには、固有の職業として専門性を確立するのに加え、生活を保障する待遇改善も求められる。
「さあいくぞ。元気に歌おう」-。東京都港区内の学童保育で、民間資格の「認定キッズコーチ」として働く寺坂尉弘(やすひろ)さん(34)がギターを片手に教室に入ると、児童らが一斉に集まってきた。寺坂さんがオリジナルソングを演奏すると、皆が楽しそうに体を揺らす。
自称「おっきいガキ大将」の寺坂さんは、体格が良く声が通る人気者。子どもの前では常に盛り上げ役だ。「善悪の判断を覚える大切な時期を預かっている。子どもたちがあこがれる大人でいたい」という。資格取得は「普段職業として実践していることの証明にもなり、自信につながる」。
認定キッズコーチは民間学童保育「キッズベースキャンプ」(東京)が2010年、都内の専門学校と連携して始めた資格。昨夏には一般社団法人キッズコーチ協会を設立し、普及に努めている。
子どもの話を最後まで聞く姿勢や自発的な行動を促す問いかけなど、子どもの可能性を引き出す「コーチング理論」が特徴だ。異なる年齢の子どもが過ごす環境での安全管理や、遊びのプロとしての企画力、働く保護者への対応力などを身に付ける。固有の職業として認知度を高め、「学童保育業界全体の底上げを狙い、待遇改善につなげたい」とキッズベースキャンプ広報の三沢敦子さんは話す。
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厚生労働省によると、国の「放課後児童クラブガイドライン」には「児童の遊びを指導する者の資格を有する者が望ましい」と書かれているだけ。実際は指導員の7割が保育士や幼稚園教諭、小学校教諭などの資格を持つ。ただ、資格要件を定める自治体は4割にとどまり、社会的な認知の低さや低待遇などの要因にもなっていた。そこで資格要件のある学童保育が少ない岡山市や福岡市などで、民間団体による認定制度が始まった。
一方、名古屋市では補助金を出す要件として、指導員に有資格者を配置するよう定めている。保育士や小学校教諭などの資格に加え、10年4月からは、同市のNPO法人・学童保育指導員協会が「学童保育士」の認定制度を始めた。
学童保育士は「前思春期」と呼ばれる学齢期の子どもの発達や、増える障害児への理解を深め、学校から解放された放課後の子どもたちに特化した専門性がある。
同協会事務局の賀屋(かや)哲男さんは、全国的には女性指導員が多く「パートの仕事」と考えられている実態に触れ、男性指導員の必要性を訴える。昨夏の児童福祉法改正により今後、対象児童が6年生まで広がると、高学年や障害がある男子児童には、同性の指導員の存在も必要になる。
賀屋さんは「男性にも職業として興味を持ってもらうには、待遇改善が欠かせない。生活の保障も含め、指導員の専門性を確立し、社会的地位の向上につなげたい」と話す。
◆8割近くが「非正規」
2年後の改正児童福祉法施行に向け、国の審議会では指導員の資格と配置基準の話し合いが進むが、指導員の待遇改善を求める声は根強い。全国学童保育連絡協議会(東京)の2012年実態調査によると、指導員は全国に約9万2000人。一施設当たりの指導員数は増えているが、正規職員ではなく公営、民営ともに非正規職員が、07年よりも1万人以上増え、全体で8割近くを占めることが分かった。
名古屋市名東区にある学童保育の女性指導員(30)は、以前勤めていた学童保育で、非正規から正規になった後、児童減による財政難で解雇されそうになった。給与は手取り月13万円。3年目から賞与もなかったという。
「仮に資格を取っても、今の財政状況では給与が上がるとは思えない。補助金増額を求めるしかない」と訴える。
国の補助金単価の内訳をみると、指導員の人件費は1人当たり年間百150万円程度。指導員は午後からの半日勤務の非常勤職員として、児童数に応じて配置する仕組みに基づく。非常勤が前提ではなく、常勤の複数配置が求められている。(福沢英里)
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