2013/07/05
過酷な労働を若い労働者に強いる「ブラック企業」が問題視されている。21日の参院選投開票を前に、若者の労働相談に取り組むNPO法人「POSSE」の今野晴貴代表に、現代日本の働き方を改めるために必要な政策を聞いた。
-最近の労働相談の動向は。
2006年から20代~30代を対象に労働相談を受けていますが、最近は相談の質が変わってきました。「ちょっと聞きたい」という軽いものが減り、切羽詰まってから相談する人が増えている。年齢も20代後半から30代が中心だったのが、入社した途端、いじめられているとか、いきなりくびだとか。
「ブラック企業」と呼ばれている会社では、新卒が使い捨てになっているんです。数年で辞めるのを前提に、長時間労働をはじめとする劣悪な労働環境にする。マニュアル労働で低賃金、単純労働をやらせる。多くが解雇せず、いじめて辞めさせますが、深刻な事例が増えました。特にうつ病を患う人が多くなっているのが深刻です。
-政治に何を求める?
過酷労働を何とかする、ということに尽きます。これまで非正規労働者の待遇改善が注目されてきました。でも最近の非正規の人の相談は「低賃金を改善したい」「不安定な身分を何とかしたい」というより「長時間労働を何とかしたい」というものが多い。非正規の人は雇い止めでくびにしやすいので「辞めたくないよね?」と、過酷な労働を押しつけられているんです。低賃金の主婦のパートでも休みが取れず、過酷になってきている。
働かせ方に歯止めがないから非正規もサービス残業をさせられている。ブラック企業は、新卒就職が難しくなっている現状につけ込み、新入社員に「おまえは一人前じゃない」といつまでも言い続ける。本人からすれば、どこまで頑張ったら一人前なのか分からない。
-何をすべきか。
正社員と非正規労働者の間で、長時間労働競争みたいな構図になっている。どこまで耐えられるかで生き残りがかかる。上限を明確に決めることが、政治的には一番大事だと思います。労働時間規制がないと家庭生活もできず、少子化にも歯止めが掛かりません。うつ病の人が増えれば国家の損失につながります。
現状では労働基準法で労働時間が規制されていても、労使間で協定(三六協定)を結んで届け出れば、上限がなくなる。ここに規制を設けるか、1日最低11時間休息させる「レストタイム制」という別の制度を設けるか。労働時間を確実に規制すれば、労働基準監督署も取り締まることができ、労働者も損害賠償を請求できるようになるはずです。
-長期的には。
残業や異動など、企業から労働者への命令を限定すべきです。地域や就く仕事を限定して働きたい人も一定数いるので、決まった地域や職務で働く「限定正社員」をつくる。非正規労働者はまず無期雇用とし、安定して働けるようにすべきです。
もちろん、中高年の社員のくびを切りたいから「限定にする」というのは違法なので、許されるべきではない。解雇する場合は、今まで通り厳正な基準で審査されることが前提です。法改正の必要もありません。
ただ、限定正社員をつくって賃金に差をつけ、「将来は正社員にステップアップできる」という仕組みにすると、結局日本型雇用に引きずられ、パワハラや長時間労働の温床になる。新しくつくる限定正社員は、別の論理で賃金を決める必要がある。限定正社員の普及は、最低賃金の大幅な引き上げとセットでないとまずいと思います。(稲田雅文)
<こんの・はるき> 1983年、宮城県生まれ。一橋大大学院社会学研究科博士課程在籍(社会政策、労働社会学)。2006年、大学在籍中にPOSSEを立ち上げた。著書に「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪」「日本の『労働』はなぜ違法がまかり通るのか?」など。
転職・求人情報検索(名古屋市・愛知県・岐阜県・三重県)はトップから