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【暮らし】鉄道職員への暴力横行 鉄道マンが証言

2013/06/28

 駅員や乗務員など鉄道職員に対する暴力がやまない。日本民営鉄道協会(民鉄協)が把握しているだけで、被害は年間900件を超える。乗客による暴力は、鉄道職員にとって職場の安全を損なうばかりか、列車の運行を妨げる原因にもなる。JR東日本の鉄道マンが、東京都内であった暴力事件について本紙に証言した。

 八王子市の八王子駅に勤務する駅員(25)が被害に遭ったのは、昨年12月29日午後11時40分ごろ。普通列車の出発監視中、扉を閉まらないよう、押さえている乗客を見つけた。現場に駆け付けると、20代の男7人連れの1人が酔って車内で熟睡し、降車できずにいたのだ。

 「客を降ろし、2分遅れで列車を発車させた後、7人から『生意気だ』と詰め寄られた。跳び蹴りを食らい、顔を殴られた」と駅員。救急搬送され、勤務を10日間休んだ。加害者は通報で駆け付けた警察官に逮捕された。後日、示談が成立し、加害者らは起訴猶予になったという。

 ホームから線路上に落とされたのは、快速に乗務していた車掌(27)。昨年1月20日午後3時20分ごろ、三鷹市の三鷹駅に到着してホームに出た際、50代の男の乗客から「なぜ、車掌室の遮光カーテンを閉めたのか」と責められた。

 車掌は言う。「『すみません』と謝っても『なんだ、その態度は!』と罵声を浴びた。胸ぐらをつかまれて押し倒され、線路に落ちた」。自力ではい上がり、全治2週間のけがで済んだが、線路に落ちるのは重大事故となりかねない。加害者は逮捕されたが、示談が成立した。

 左半身がまひして職場復帰できないままの男性(31)もいる。勤務する武蔵野市の武蔵境駅で2010年1月10日午前4時20分ごろ、駅を開けた直後に被害に遭った。

 男性は「具合の悪い人がいる」と若い男に言われ、改札脇に行くと、うずくまった男がいたそうだ。すると、最初の若い男がネームプレートを見て「○○(他者の名前)じゃないけど、まあいいか」と、棒のようなもので殴りかかり、あとは殴る蹴るの暴行。男性は「無線で応援要請したことまで覚えているが、その後の記憶がない」と話している。男性は救急搬送された。

 警察が駆け付けたが、加害者は逃走し、捕まっていない。

 男性は頸椎(けいつい)捻挫で2週間ほど休養。1度は職場復帰したが、それから症状が悪化。頸椎損傷が原因とみられる「左半身不随」と診断され、現在も休職している。男性には妻と2人の娘がいる。契約社員で正社員に登用されなければ、来年9月の契約期限切れで収入は途絶える。

 該当する名前の駅員は同駅に勤務していた。暴行事件の半月前に精算トラブルで、客から喉元を殴られる被害を受けていた。

◆逮捕されても示談が通例
 民鉄協によると、JRと私鉄、地下鉄の駅や車内で2011年度に駅員、乗務員が客から暴行を受けた事件は全国で911件に上り、過去最多だった09年度の869件を上回った。7月3日に公表される12年度のデータも高止まりが続いているという。

 各社とも暴力追放キャンペーンを進めるが、加害者は乗客でもあることから、職員が被害を受ける個別事件は公表されないケースが多い。逮捕されても、示談で穏便に処理するのが通例という。

 JR東労組八王子地方本部では「数字に表れない暴力行為も多い。ポスターを張ってマナーを訴えるだけでは暴力行為を根絶できない。暴力には、客でも毅然(きぜん)と対応し、個別事件も公表して、情報を現場に周知させるべきではないか」と指摘している。
 (三浦耕喜)