2013/06/21
不妊治療と仕事の両立に悩む女性が増えている。生理周期に合わせて治療するため、日程を決めるのが難しく、急に休まなければならないことが多いからだ。経済的負担も大きく、働き続けるための支援が求められている。
約4年前から不妊治療を続ける大阪市の看護師柏本佐智子さん(37)は、何カ月も先まで印が付いたカレンダーを「休みが尽きるか、お金が尽きるか、どちらが先か」と見つめる。治療費は全額自己負担で、これまで300万円を使った。
昨年治療のために受診したのは49回。時間単位で取れる休暇もあるが、不妊治療に通う大学病院は混み、1日がかりになることも。体外受精のための卵子採取後は体調を崩すことが多く、1週間ほど病気休暇を取ったこともあった。
「糖尿病看護認定看護師」の資格を持ち、患者との面談に加え、院内外で講演する。だが、予定が立てられずに講演を断ることもある。当初は仕事で治療を休むことがあったが、職場の理解もあり、今は治療最優先。「この日は休みそう」と同僚に伝えるが、その通りにならないこともある。
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「突然『明後日の午前、また受診して』と言われるので、仕事の予定を入れられずに困った」
IT企業に勤めていた神奈川県の女性(40)は振り返る。受診は多いと月7~8回。治療を上司に話すと「専念した方がいい」と強く勧められ、1年前に退職に追い込まれた。
医師に「仕事がストレスになっているかも」と言われたが、退職後は社会とのつながりがなくなり、より強いストレスを感じた。最近、派遣社員として別の職場で働き始めたが、治療のことは言えずにいる。「助成金も必要だが、働き続けられる仕組みづくりをしてほしい」と願う。
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空港で接客の仕事をしていた神奈川県の女性(35)は「治療していることを理解してほしいとも考えたが、言い出せる雰囲気ではなかった」と打ち明ける。隠したため、仕事の都合で治療のタイミングを逃すことも。勤務は未明からの早番と、午後から未明までの遅番の2交代。平日の日中に受診しやすかったが、朝治療してから出勤し、未明まで続く仕事は体力的にもきつく、1年半前に退職した。
「赤ちゃんを授かったときに貯金ゼロでは困る」との焦りもある。今後は、治療を隠さないつもりでいる。
◆有給や短時間勤務など望む声
国立社会保障・人口問題研究所の2010年の調査では、不妊を心配したことのある夫婦の割合は31・1%と、五年前の調査より5ポイント増。実際に不妊の検査や治療を受けた夫婦の割合は16・4%で、子どものいない夫婦では28・6%に上る。
不妊の人たちを支援するNPO法人・Fine(ファイン、東京)が、治療中の約2000人に実施したアンケートによると、86・6%が「仕事などに支障をきたしたことがある」と回答。「職場で治療へのサポートがない」人も63・8%と、仕事の調整に苦心する様子がうかがえる。
理事長の松本亜樹子さんによると、治療と仕事を両立できず、悩んだ末に退職した人も多いという。「特効薬はない。まずは職場で理解を深めてもらうため、企業で研修を取り入れてほしい」と話す。注射や検査などは半日あればできるため、フレックス勤務や短時間勤務、時間単位で取得できる有給休暇などを要望する声が多い。
国内では百貨店や大手メーカーなど、不妊治療のための有給休暇や、短時間勤務制度などを導入した企業もある。
(稲熊美樹)
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