2013/06/14
手づくりの傘は遊び心がいっぱい。ひっくり返しても骨は見えない。裏面に布が張ってあるからだ。「骨に髪の毛が引っかからないよう私が考えたの」。東京都台東区の傘職人山崎健次さんが笑う。
この道50年。1本を約1時間で完成させる。まず布に三角形の木型を当てる。木型は傘の美しい曲線を出す大切な道具。手づくりの木型を、傘の大きさで使い分ける。
木型に沿って8枚の三角形をカッターで切り、ミシンで縫って半円形に。縫い目から水が漏れないよう、ろうを塗った糸で生地と8本の骨を手縫いする。「昔は分業で作っていたけどね。今は職人が減ったから、1人で全部作ってます」
台東区はかつて傘の生産が盛んで、今も全国約50社が加盟する日本洋傘振興協議会の事務局がある。昭和40年代は同区だけで数十のメーカーがあったというが、中国製のビニール傘の普及で廃業が相次ぎ、職人も高齢化。傘作りは梅雨前の繁忙期と冬季の閑散期との差が激しく、後継者のなり手がいない。
山崎さんは同区のワカオに勤務。創業約70年で、年間約3万本の傘を生産する老舗だ。若尾俊行社長(42)は「100円のビニール傘に勝つため、うちはデザインを重視」と話す。
傘の布には服やスカーフにも使われる綿やポリエステルに、防水と紫外線(UV)カット加工をして使用。日傘には浴衣の生地も使う。1本1万円以上と値が張るが、銀座や六本木の高級セレクトショップでも扱われている。
デザインは山崎さんや若尾社長が考案。裏面の色が1カ所だけ違うのは、山崎さんいわく「布が足りなかったから」。そんなふうにして世界に1本だけのパッチワーク柄が出来上がる。しまいやすいよう、折り畳み傘に留め具を2カ所つけるなど機能性にもこだわる。
「雨の日でも心が晴れるような楽しい傘を心を込めて作っています。壊れても修理して、いつまでも大切に使ってほしい」
(文・細川暁子、写真・坂本亜由理)
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