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【暮らし】<はたらく>「育休3年」弊害も大 首相要請 当事者から違和感

2013/05/10

 安倍晋三首相が、女性の活躍推進のためにと新たに打ち出した「育児休業3年」。当事者からは違和感を表明する声が多いようだ。専門家は「選択肢は増えるが、弊害も大きい」と指摘する。(稲熊美樹)

 「育休を延ばすより、看護休暇や短時間勤務制度など、復職後の制度を充実させて」

 長男(2つ)が生後7カ月の時に復職した東京都の会社員、斉藤真里子さん(38)は要望する。長男が認可保育所に入れず苦労した経験から、保育所増設の運動もしている。「3歳まで休む人が増えれば待機児童は減るが、経済的な理由で働いている人が多い」と話す。

 岐阜市で起業家支援をする高嶋舞さん(31)は、「自営業の場合、育休だといっても、誰も代わりに仕事をしてくれない」と、産後1カ月後ほどで徐々に仕事を再開した。「女性が本当にいきいきと働ける環境は、休むことだけではないはず」

 東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長の渥美由喜(なおき)さんは、「女性が妊娠や出産を機に退職する主な要因は、長時間労働などで仕事と育児や家事を両立する環境が、整備されていないこと。3歳まで育児に専念したい人は、多数派ではない」と指摘する。

 厚生労働省の調査によると、長時間労働や両立支援制度の不備を理由に辞めた人は、出産を機に育児に専念しようと自発的に辞めた人の2倍以上=グラフ。解雇や退職勧奨で辞める人も多い。

 そもそも真っ先にするべきことは、保育所に入りたくても入れない「待機児童」の解消。政府は定員を40万人増やすとするが、渥美さんの試算によると、潜在的な待機児童は100万~120万人に上るため、政府の対応は「甘い」という。待機児童問題が女性の就労に引き起こしているのが、復帰したくてもできない「負の連鎖」だ=イラスト。

 中長期的には、男性の長時間労働の是正などによる育児参加の促進が鍵となる。他の先進国に比べて、日本では父親の家事や育児の時間は極めて短い。母親が家事や育児を担っており、「育休の延長は、この状況に拍車をかけるだけ」という。

 男性の育休取得で問題なのは所得保障だ。渥美さんは「育休中の在宅勤務を可能とし、現在も育休中に支給される育児休業給付金を受け取りながら、部分的に休業の取得もできるようにする。給付金だけでは不足と感じる人も多いため、在宅勤務の分を上乗せして保障すれば企業側も社員側も歓迎する」と提案する。

【安倍首相による育児休業3年の要請】
 育児・介護休業法は、企業に子どもが1歳になるまでの休業制度をつくるよう義務付けている。男女とも取得できる。保育所に入れないなどやむを得ない場合は、1年半まで延長できる。この間、雇用保険から育児休業給付金が産前給与の5割支給される。安倍首相は経済団体に法的義務でなく、自主的に「3年育休」を推進するよう要請。新たな助成金をつくるなど応援する考えだ。