2013/05/03
男性「申告表生かせず」
会社「ルール通りに対応」
自動車メーカーの製造ラインで働き、首を痛めて休職を余儀なくされた愛知県の男性から、「健康配慮義務が法律で定められているはずなのに、会社は動いてくれなかった」という声が、本紙生活部に寄せられた。男性は上司に勤務への配慮を求めたが、なかなか対応してもらえず、健康状態を申告する仕組みも生かせなかったという。 (田辺利奈)
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男性は40代で、1990年からこのメーカーの工場に勤務。2010年からは頭上を流れてくる車体の品質チェックの仕事になった。目視で検査する仕事で、身長が高めだった男性は、中腰になって見上げる形に。首に負担がかかる姿勢だった。
配属されて10カ月たったころ、顔がしびれるようになり、首や手足の痛みも出始めた。そのため上司に相談すると、「もうだめだと思ったら言ってくれ」との返答だった。なんとか作業はできたため、我慢しながら勤務した。その後も同じようなやりとりが何度か続いた。
整形外科にも通ったが、1カ月ほどして「もう限界だ」と感じるほどの痛みに。就業前に記入する「健康チェック表」に、痛みについて書き込んだ。しかし、上司に「しばらくしたら交代させるから、とりあえずやってくれ」と言われ、2時間半ほど作業。痛みに耐えきれず早退した。診断の結果は頸椎(けいつい)症で、2週間休んだ。その後は復職と休職を繰り返している。
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昨年、労働基準監督署に出向き、労災を申請した。調査はしてくれたものの「作業が症状の原因だと証明できない」として、労災認定はされなかった。健康保険から傷病手当金は出たが、週に数日リハビリや治療に通っており、「経済的にも不安」と話す。
労働安全衛生法では、会社が社員の安全・健康を守る義務を定めている。違反があった場合、労災認定された事故かどうかにかかわらず、刑事責任が問われることもある。
メーカーの広報によると、同法に基づき、専門的な立場から指導や助言をする産業医を置いている。健康チェック表については、運用ルールに基づいて対応しており、不調の記入があれば上司から本人に話を聞かせているという。
社内に専門部署もあり、労働者を守る責任は果たしているとの考えだ。男性は「不調を訴えた時点で、産業医などの指示を仰ぐべきだったのでは。何のためのチェック表なのか」と憤る。
メーカー側は「強制的に作業を続けさせたという事実は、職場への聞き取り調査から確認できなかった」と話し、「男性と上司の間で『もうだめだとなったら』という言葉に、認識の違いがあったかもしれない」と説明する。
労働問題に詳しい名古屋市の加藤悠史弁護士は、職場で健康上の配慮がされない場合、自身で医療機関を受診し、診断書を会社に提出することを勧める。
「作業時間を短くしたり、作業内容を変えたりといった対応をするよう、医師から助言をもらうこともできる。休職してしまう前に声を上げることが大切」と話す。
【労働安全衛生法】
従業員の安全や健康を守るため、事業所が取り組むべき措置を定めている。内容は[1]産業医を選任する(従業員50人以上の場合)[2]ガスや粉じんなどによる健康障害を防止する[3]機械や原材料の危険性や取り扱い方を知らせる[4]健康診断を実施する-など。
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