2013/03/27
荒木正人さん(64)
好きな運転役立てる
大型ワゴンタイプの車の後方には可動式のスロープ。車椅子に乗ったまま乗り降りできる専用車だ。ハンドルを握る荒木正人さん(東京都渋谷区)は「お客さんのほとんどは親を介護する同世代。通院などの移動に困ってる人が結構多いんです」と表情を引き締めた。
40代まで、大手企業のシステムエンジニア(SE)としてバリバリ働いていた。ところが、50歳を前に「定年後の自分を想像したら全く未来が描けなかった」。会社ではそれなりの地位や人脈を築いていたが、それが定年後に豊かな実を結ぶとは、どうしても思えなかった。
せかされるように図書館で資格の本を読みあさった。中高年世代の悩みに応えるシニアライフアドバイザー(SLA)に興味を持ち、養成講座を受講、資格を得た。すぐにSLAの集まりに参加し、交流を深めた。「周りはボランティア活動などで充実した生活を送っている人生の大先輩ばかり。大きな刺激になった」
その中の1人で、10歳ほど年上の男性との出会いが進むべき道を決定付けた。男性は車椅子のお年寄りらの移動を助ける有償ボランティアをしていた。「昔から運転するのは好き。好きなことをしながら人の役に立てる。ぴったりだと直感した」。すぐに男性から介護タクシーに関わるノウハウを聞いた。
仕事を続けながら、まずは車の2種免許を取得。そして早期退職制度を利用して56歳で退職、開業準備に集中した。「要介護者に接する仕事には必要」とヘルパー2級も取った。営業ナンバーを申請するための煩雑な手続きもやり遂げた。
2007年、当時住んでいた東京都杉並区で「サン・ゴールド介護タクシー」を開業した。近所の老人介護施設にチラシを置くなど営業活動をしたが、「週に1、2回しか電話が鳴らなかった」。だが、お年寄りのベッドから車椅子への移動を手伝うなど、きめ細かい対応が評判になり、次第に固定客が増えていった。
「ただ運ぶだけではない。長年、親を介護している常連さんの愚痴に付き合うことも大事な仕事です」。定期的契約の病院も増え、現在は荒木さんも含めドライバー7人体制で運行している。
「通院やショートステイへの送迎などの利用がほとんどだが、時には旅行などレジャーでの利用も。お客さんの笑顔を地道に支えていきたいですね」と語る。 (宮本直子)
転職・求人情報検索(名古屋市・愛知県・岐阜県・三重県)はトップから