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【暮らし】<はたらく>過労、パワハラで“自己都合”退職 労働時間の規制強化を

2013/02/01

 若者に残業代も支払わず長時間労働をさせた上、理不尽な叱責(しっせき)などの嫌がらせで最終的に“自己都合”の退社に追い込む「ブラック企業」が問題になっている。厚生労働省は最近、参考情報として初めて大卒者の3年以内離職率を業種別で公表したが、対策としては不十分だ。若者の雇用問題に取り組む団体からは、労働時間規制の強化を求める声が上がる。 (稲田雅文)

 「もし新卒社員を大切にしてくれる会社だったら、もっと安定した人生になったのに」。東京都の20代女性がため息交じりに体験を語った。

 4年制大学に通い、就職活動をしたのは2008年のリーマン・ショック後。人と接することが好きで、都内の飲食業界の企業を選び、正社員として入社した。

 2カ月間の研修はひたすら大声であいさつをしたり、「出世のために周りを蹴落とせ」と心構えを言われたりするだけで、実務の話はなかった。店舗に配属されても仕事は教えてもらえず、アルバイト店員に聞いて覚えた。

 昼間も営業している店舗なのに、深夜から朝までの夜勤シフトばかりで働かされた。日常的に残業していたが、最初の1年は深夜手当も残業代もなく、手取り18万円の給料は変わらなかった。

 「おかしい」と思ったのは上司である店長の態度。日ごろの勤務を延々と説教されるようになった。徐々にエスカレートし「世間が分かっていない」「なんでいるの?」などと、人格を否定する言葉で1~2時間罵倒されるようになった。

 昼夜逆転の生活の上、長時間労働が続き、入社から1年余りで体調を崩した。上司に相談すると「やめてしまえ」と言われたのに、自己都合退職として扱われた。

 再就職先は正社員を探したが見つからず、自己都合とされて雇用保険の失業給付が3カ月間出ない焦りもあって、契約社員として現在の会社に入った。ここでも上司の嫌がらせに遭い、精神的に参って休職。将来に不安を抱える女性は「安定して働きたい」と語る。

     ◇

 労働相談などで若者の雇用問題に取り組むNPO法人「POSSE(ポッセ)」事務局長の川村遼平さん(26)は「ブラック企業の正社員からの相談が増えたのは、リーマン・ショック後」と語る。

 ブラック企業の本質を、川村さんは「義務だけ正社員」と説明する。かつての日本企業の雇用は、単身赴任やサービス残業などの義務を果たせば、手厚い賃金や福利厚生などの恩恵があった。だが、ブラック企業は「代わりはいくらでもいる」と脅し低賃金で働かせ、長時間勤務やパワハラなどの違法状態で使いつぶそうとする。「働き続けても、うつ病などで崩壊するだけ」と川村さん。

 ポッセが10年に実施した調査では、東京や京都など、複数箇所のハローワークを訪れた18~34歳の223人のうち122人が自己都合退職とされていた。しかし、聞き取り調査をすると、本来の意味の自己都合だった人は15%で、大部分は労働環境に問題があった。

 厚労省は昨年10月、入社後3年以内に仕事を辞めた人の業種別割合を公表。全業種での大卒の平均28・8%に対し、「教育・学習支援」で48・8%、「宿泊・飲食サービス」で48・5%、「生活関連サービス・娯楽」で45・0%と高かった。国が対策に乗り出した格好だが、業界の公表だけでは根本的な解決にはつながらない。川村さんは、「過労状態を前提にした働き方を改めるため、当面の対策として労働時間規制を強化すべきだ」と訴えている。

 <ブラック企業> 長時間労働やパワーハラスメント、残業代未払いなど、違法な労働条件や待遇が常態化している企業。かつては暴力団が関わるなど反社会的な企業を指したが、最近では業界で1、2を争う企業も含まれる。インターネットで若者が使い始め、広まった。