2012/01/25
全員が出資 経営者で労働者
「助け、助けられる」
「協同労働」という新しい働き方がある。全員で出資し、事業を決め、働き、経営する。いわば経営責任を持った労働者による協同組合(ワーカーズコープ)だ。そんな協同労働を実践する人たちを描いたドキュメンタリー映画「ワーカーズ」が完成。舞台となった東京都墨田区の活動を取材した。 (発知恵理子)
冬晴れの午前中、東京スカイツリーの足元にある下町の公園。厳しい寒さにもかかわらず、地域住民ら約50人が集まった。多くは60~90代の元気なシニアたちだ。
その中心にいるのが、高齢者施設「いきいきプラザ」の施設長の高浜和行さん(58)。大声を張り上げて、自ら考案した介護予防の健康体操を教える。参加者からは「つえがなくても階段の上り下りが楽になった」「話も面白くて笑いが絶えない」と評判は上々だ。
元体育教師の高浜さんは、地元中学などで27年間、熱心に教えてきた。だが家庭でのトラブルをきっかけに、離婚、退職。その後は日雇い労働に明け暮れた。心身がすさむのを感じ、自分を生かせる仕事をとハローワークを訪れ、7年前に今の仕事に出合った。
高浜さんは、区から同施設の運営を受託したワーカーズコープの組合員になった。今では、14人の組合員のリーダー。「地域のためになるやりがいのある仕事。自分も生き返った」と言う。
ヘルパーの大谷みちこさん(62)は、7人のヘルパー仲間と既存のワーカーズコープに加入し、組合員の承認を受けて、介護事務所「あゆみケアサービス」を立ち上げた。以前は家政婦紹介所の登録ヘルパーだったが、身分の不安定さに疑問を感じていた。
「自分たちのために仕事を起こそうと思ったけど、お金がなかった。どうしたら、と思った時にワーカーズコープの紹介を受けた」と振り返る。
今では介護にとどまらず、家探しや大掃除、生活保護の申請補助や葬式まで、地域の高齢者や障害者らを支える。大谷さんは「お金にならない依頼がいっぱい来る」と苦笑するが、「誰かがやらないとその人の生活は成り立たない。みんな助けて助けられる」。
映画では、高浜さんや大谷さんの活動を追うほか、ワーカーズコープが運営する児童館や子育て支援で新事業を立ち上げたケースも紹介。森康行監督は「成果主義や効率優先が横行し、就職できずに傷ついている若者もいる。金もうけではなく、働く喜びや生きがい、誇りを感じられる働き方の一つとして知ってほしい」と話す。
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映画は2月2日から、東京都中野区のポレポレ東中野で公開。配給元の映画「ワーカーズ」全国上映普及委員会は、各地で自主上映を目指している。問い合わせは、同委員会(日本労働者協同組合ワーカーズコープ連合会内)=電03(6907)8032=へ。
◆協同労働の協同組合
ワーカーズコープ、ワーカーズコレクティブ、労働者協同組合とも呼ばれる。児童館や託児所などの公共施設の管理、運営の受託や介護、障害者福祉事業の起業のような事例が多い。運営主体としての協同組合には、日本では適切な法人格がないため、NPO法人や企業組合法人として活動している。組合員全員が出資し、事業内容や給料も決め、対等な立場で働き、経営も担う。営利追求は目的としない。この形態で国内では約5万人が働き、総事業高は約300億円とされる。
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