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【暮らし】<はたらく>仕事としてのNPO活動 「やりがい実感」「生計成り立つ」

2012/01/11

 利益を出すことを目的としないNPOで働く人は「収入が低い」「多忙」とのイメージがある。実際には、どんな思いで、どんな働き方をしているのか。取材すると「社会に役立っている実感がある」「経営を安定させれば、きちんと生計は立てられる」など、情熱を持って取り組む姿が伝わってきた。 (田辺利奈)

 昨年十二月、名古屋市にある団地の一室。同市のNPO法人「御用利(き)きと出前授業」の加藤幹泰さん(28)らは、入院中の六十代男性の依頼で部屋を片付けた。一緒に作業するのはNPOに登録するボランティアの会員。冷蔵庫の中の食品や鍋などを手際良く分別して処分した。

 NPOは水道修理やパソコン指導など、得意分野がある人に、有償ボランティアとして会員登録してもらい、依頼に合わせて派遣する。「地域の課題は地域で解決」を目指す、いわば地域の便利屋さんだ。ボランティアは無償のイメージが強いが、活動を継続させるためにも謝礼金を払う仕組みにしている。

 加藤さんがこのNPOで働き始めたのは昨年春。以前は名古屋市内で求人広告の制作会社に勤めていた。営業ノルマが厳しく多忙な中、「自分の仕事は本当に世の中のためになっているのか」との思いが強くなった。

 大阪に転勤となり、仕事以外の居場所をつくろうと、ごみ拾いをするNPOに参加。メンバーと活動するうち、その魅力に引き込まれた。二十六歳で退職し、そのNPOで約一年働いた。

 その後は名古屋の実家へ戻り、現在の職場に。それまで培った「人と人をマッチングさせるノウハウ」が生かせるとの思いがあった。現在の平均月収は約十五万円で、会社勤めの時の六割弱。ボーナスや雇用保険もない。それでも「社会に必要なものを自分で考え、つくり出している実感がある。会社勤めでは満たされなかった部分」と話す。

 加藤さんはNPO法人「御用利きと出前授業」と雇用契約はなく、個人事業所として自ら依頼を請け負い、チラシ配りなどで営業もする。将来は独立するためだ。同法人の光武育雄代表(64)は「若者がNPOで働いて生計を立てるには、自身が事業主になるのも一つの方法」といい、経営ノウハウを後進に伝え、組織立ち上げを支援する。

 一方、NPO法人「NPOサポートセンター」(東京都)の職員として働く小堀悠さん(34)は、「NPOは利益を上げてはいけないとの誤解がある。収益事業は可能で、経営が安定していれば会社と変わらない」と話す。小堀さんは自身も結婚しており、家計を担う。平日と月二回は土曜日に出勤し、ボーナスに当たる期末手当や雇用保険もある。年収は約四百万円という。

 一般的にNPOの新卒採用は少なく、社会経験を積んだ即戦力を求める傾向にある。小堀さんも以前はIT系企業で働いていた。NPOで安定雇用をするには、「良いサービスに対して適正な対価を得て、事業を成り立たせる必要がある」と話している。

◆待遇は改善傾向に
 NPO法人の制度ができて十五年。団体数は年々増加し、今では全国に四万六千以上がある。

 東京都の事業を請け負う「東京しごと財団」の二〇一〇年の調査によると、都内のNPOの事業規模は〇五年に比べ、五百万円未満が51・8%から42・7%に減少。五千万円以上は7・7%から12%に増加した。職員の平均給与は五万~十万円未満が10・4%から5・4%に、二十五万~三十万円未満が8・7%から15・8%に改善している。

 愛知県の一〇年の調査では、正規職員の年収の中央値は二百五十二万円(一部の低収入層が平均値を引き下げるため、中央値を採用)。通勤手当の支給率は68・9%、賞与は56・7%。事業規模三千万円以上だと、賞与や残業規定、休暇の充実が進んでいるという。

「御用利きと出前授業」のボランティア会員と一緒に部屋の片付けをする加藤幹泰さん(右)=名古屋市で
「御用利きと出前授業」のボランティア会員と一緒に部屋の片付けをする加藤幹泰さん(右)=名古屋市で