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【健康】社員ががんに… 復職へ制度充実が課題

2012/12/04

先進企業 支援部署設け、時短勤務
中小企業は困難 行政が後押しを

 勤労世代の20万人以上が毎年、新たにがんと診断されている。医療の進歩で早期発見なら治癒する人も多いが、治療の長期化が就労に悪影響を及ぼしかねない。6月に策定された国の「がん対策推進基本計画」には初めて、患者の就労支援が盛り込まれた。がん患者のための先駆的な取り組みを取材した。 (伊東治子)

 大手カード会社「クレディセゾン」(東京都)は2008年4月、病気で休職した社員の復職支援のため、健康管理室を設置した。同室の産業医は、復職前の社員から症状や治療計画を聞き、勤務上、配慮が必要な点を人事部に伝える。人事部は上司に復職後の勤務内容、時間を指示し、順守を求める。

 就業規則も改定し、復職後、原則3カ月まで最大2時間の短縮勤務が可能に。うつ病や子宮がん、大腸がんなどで休職した社員が制度を利用する。武田雅子人事部長(44)は「本来、精神的な病気になった社員を対象にした制度を、がんなどにも適用している」と話す。

 自身も8年前、乳がんの手術で3週間休職した。その後、ホルモン療法の副作用で抑うつ状態になり、数年間、抗不安薬などを服用した。それでも仕事を続けた武田さんは「人は社会とつながることで生きがいを感じる。仕事を辞めて病気と向き合うのはつらい」。特に男性社員は、がんになると、会社を辞めなければと考える人が多いといい、「どんな働き方なら仕事を続けられるか、会社が選択肢を示すことが大事だ」と指摘する。

 中小企業は休暇制度などに不備があることが多いが、柔軟に就労支援をしている企業も。社員約30人の食品卸会社「桜井謙二商店」(千葉県銚子市)の桜井公恵社長(45)は「小さいからこそ、社員の実情に合った対応ができる」と話す。

 40代の女性社員が乳がんで9カ月休職した際、復職後の1カ月間は体を慣らすため、1日2時間だけ出社にし、給与は時間給で支払った。勤務時間を少しずつ増やし、3年かけてフルタイム勤務に戻した。桜井さんも夫と父、叔父をがんで亡くし、「長年働いていれば、誰の身にも何かが起こる。お互いさまという気持ちです」。

 がん経験者らの就労問題に取り組む一般社団法人「CSRプロジェクト」の桜井なおみ代表理事(45)は「大企業ではある程度、制度が整っている場合が多いが、中小企業では難しい。子育て支援のように行政の後押しが必要」と指摘する。

 具体的には、休職中の社員の社会保険料負担の免除や、治療のための休暇制度を設け、実際に社員が利用している企業を表彰することなどだ。「がん対策にも積極的に取り組む企業が評価される仕組みをつくることで、患者が働きやすい環境が整備される」と話す。

◆就業規則を確認して

 CSR理事で社会保険労務士の近藤明美さん(44)は、がんで休職する場合「就業規則で、労災以外の私傷病で取得できる休暇・休職制度があるか確認を」と話す。

 制度がなければ、年次有給休暇を消化した後は欠勤扱いになり、有給の残りと次の付与日の確認が大切。「会社によっては、未消化の有給を年次を越えて積み立てる制度もある」という。時短、フレックスタイムや、転勤、異動への配慮も社側に確かめておきたい。

 4日以上休んで給与が払われないときは、健保組合などに傷病手当金を申請すれば、給与の3分の2相当が支給される。

 CSRは就労や復職に関する電話での個別相談を実施。詳しくはCSRのホームページ(CSR、就労セカンドオピニオンで検索)で。

【メモ】
 がん経験者の就労支援を目的につくられた会社「キャンサー・ソリューションズ」が昨年12月、全国のがん経験者約360人に実施した調査では、がんで就労状況が変わった人が全体の53%を占めた。そのうち30%が依願退職、17%が転職で解雇も11%あった。

「利用できる制度の確認を」と話す近藤明美さん=埼玉県越谷市で
「利用できる制度の確認を」と話す近藤明美さん=埼玉県越谷市で