2012/09/21
認知症の父を在宅でサポート
東レ経営研究所 渥美由喜さん
団塊の世代があと10年で75歳を超え始め、まもなくやってくる〝大介護時代〟。共働き家庭が過半数を占め、仕事をしながらの介護に誰もが直面する可能性がある。認知症の父(76)を在宅介護しながら、企業の両立支援を研究している東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長の渥美由喜さん(44)に、「会社員、介護、子育て、看護、家事」の〝5Kライフ〟にどう向き合っているかを聞いた。 (稲熊美樹)
-介護が始まったのはいつですか。
「1人暮らしの父が統合失調症を発症し、攻撃的になったり、徘徊(はいかい)するようになり、2009年12月から3カ月間、入院しました。合う薬が見つかって症状は改善されたものの、認知症もあって要介護1。家に戻ってもサポートが必要な状態でした」
-退院後の介護体制はどう整えましたか。
「会社員の妻(44)や、きょうだいと話し合いました。介護はプロジェクト。仕事の経験が生きます。感情をぶつけ合うより、仕事の会議のようにビジネスライクの方がいい。どういう状態が父にとって幸せか、ゴールイメージを共有しました。要介護1だと、介護保険制度だけでは足りません。自費で補っています」
-話し合いで問題はありましたか。
「親戚が口を出したことがありましたが、断りました。介護は相続権に応じて関わるべきであり『長男の嫁だからやれ』というのもおかしい。本来は対価を伴うこと。相続権があっても介護に関われないなら権利を放棄し、介護している人にお願いするべきです。時間をかけられないのなら、少なくともお金を出さなくては」
-介護が始まって生活は変わりましたか。
「自宅から父の暮らす家へは、車で15分。父は知らない人を家に入れるのを嫌がったので、介護者に慣れるまでの3カ月間は集中的に滞在しました。新しい生活に慣れるまでは、家族が関わるしかありません。今も、毎日子どもたちと一緒に顔を出しています」
-3カ月間はどう乗り切ったのですか。
「在宅勤務です。父の家で仕事をした。あらゆる職種で、少なくとも週1日はできると感じます」
-仕事での工夫は。
「今も出張回数は減らしています。いつでもどこでも仕事ができるようパソコンや資料は持ち歩き、移動や待ち時間には立ったままパソコンを開きます」
-お子さんの看護も経験されました。
「介護との両立が軌道に乗ったころ、次男の病気が判明。病院に1カ月半寝泊まりしました。それまでの4Kが5Kになりましたが、大きくは変わりません。手術は成功し、今は元気に保育所に通っていますが、もし明日再発しても悔いのない子育てをと決めています」
-端から見れば大変な状況。仕事を辞めることは考えなかったのですか。
「辞めればいったんは楽になりますが、認知症の親と1日中向き合うのは、ストレスがたまります。仕事をすれば相殺できると考えました。介護経験がある上司の励ましも大きかった。研究にも深みが出た。直接介護に関わらない仕事でも、今後増える介護にまつわるニーズを肌で感じられ、仕事にも役立つと思います」
-介護で心掛けていることは。
「憎しみが湧くこともありましたが、愛情を込めて育ててくれたことに感謝し、いずれ自分が老いたときにしてもらいたいことをするようにしています」
-介護と仕事の両立でつらいときはどう考えればいいでしょう。
「親や子どもは変えられませんが、会社や仕事は変えられます。優先すべきは介護や子育て。1人で抱え込まず、まずは相談を」
【あつみ・なおき】
介護支援をはじめ、企業のワーク・ライフ・バランスなどのコンサルティングを手掛け、講演は年間100件以上。前内閣府男女共同参画会議基本問題・影響調査専門調査会専門委員。著書に「ムダとり時間術」(日本経済新聞出版社)、「イクメンで行こう!育児も仕事も充実させる生き方」(同)など。
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