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壮春グラフティ/女性起業家応援長屋を開設 夢のステージに送り出す

2012/09/19

森田麻里さん(56)

 女性が起業する際のネックは? 岩手県紫波(しわ)町の森田麻里さんはこの課題を解決するため、4月から空き民家を活用して「女性起業家応援長屋 ならいまち・こまち」をスタートさせた。起業を志す女性たちが、ここを拠点に羽ばたき始めている。

 昨年度まで3年間、同町のNPO法人「風・波デザイン」でコミュニティービジネスのコーディネートを担った。飲食店、グリーンツーリズム、健康講座…起業を目指す地元の女性の志に触れ、「男性中心の競争社会に閉塞(へいそく)感が漂う中、時代を動かすのは女性のパワーだと感じた」。

 同時に、女性の起業のハードルの1つが「活動拠点や事務所の確保」と知った。自宅とする場合が多いが、対外的に信用を得づらかったり、打ち合わせに支障が出ることもある。特に女性は、自宅を名刺やHPで公表するのは避けたい場合もある。

 知人が実家を取り壊すと聞き、安く借り受け、賃料を低く抑えることができた。民間企業のNPO助成も活用した。「場所さえあれば、良い意味でのし上がっていけるはず。頑張る女性がステージに上がるための場所をつくりたかった」

 昨年の東日本大震災での経験も気持ちを後押しした。同町のボランティアセンターに行くと「男性は県の指示を待っていた。女性は支援物資を持って現場に走った」。物資を配る際も、段ボールに入ったままでは被災者は手を出しづらい。女性たちは小分けにし、声をかけて届けていた。「競争の次の社会の価値はつながりやシェア。担えるのは女性」

 都市型の起業家支援施設(インキュベーションオフィス)とはまるで違う。和室と土間、台所に利用者と森田さん、地域住民も出入りし、夢も地域おこしもごちゃまぜに語り合う。

 バルーンアーティストの大沼利子さん(50)=同町=は2008年に自宅を拠点に起業したが、「4世代同居なので制作に支障があり、打ち合わせもできなかった」。長屋では「資材も置けるし、アルバイトにも入ってもらえる」。音楽ビジネスで起業準備中のシンガーIZUMIさん(44)=盛岡市=は「資金が十分にはなくても夢を目指せるのは、ここがあるから」。このほか、地元の女性6人が利用を予定している。

 「起業のノウハウは公的な講座で学べばいい」と森田さんは語る。「人や地域とつながれば、世界は広がっていく。1人ではできないことを支えるのがこの長屋なんです」

  (杉戸祐子)

笑いの絶えない長屋で活動する(左から)森田麻里さん、大沼利子さん、IZUMIさん=岩手県紫波町で
笑いの絶えない長屋で活動する(左から)森田麻里さん、大沼利子さん、IZUMIさん=岩手県紫波町で