2012/09/18
簡易検査 運輸業界中心に広まる
昼間に強い眠気を覚える「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」は、患者の健康だけでなく、仕事の能率や安全にも大きく影響する病気だ。運輸業界を中心に早期発見の取り組みが進んできたが、SASと分かっても治療を嫌がる人も多い。他の睡眠障害が見過ごされている場合もある。睡眠の専門医たちは「産業保健の中で、睡眠の問題をもっと重視してほしい」と訴える。 (編集委員・安藤明夫)
SAS対策にいち早く取り組んできたのは、全日本トラック協会。早期発見のための「パルスオキシメーター検査」の半額助成の制度を2005年に設け、昨年までの7年間に約17万人が検査を受けた。
SASは肥満との関係が深いため、啓発のパンフレットを作ったり、セミナーを開くなどして、ドライバーの健康管理の意識付けを図っている。同協会は「SAS治療の強制はできないが、居眠り運転には疲労、風邪薬の副作用などさまざまな原因があり、健康意識を高めることが防止につながる」と話す。
JR東海では、簡易検査でSASの疑いが出た運転士や車掌は、専門医療機関での診断が出るまで乗務から外し、治療を促している。
従業員がチェックする「睡眠自己管理プログラム」も10年から本格導入した。乗務員区所など40カ所に端末を置き、就寝、起床の時刻、勤務時間、感じた眠気の強さ、疲労度などを打ち込むと、評価(100点満点)や「15分程度の仮眠を取りましょう」などのアドバイスが表示される。SAS以外にも、睡眠と健康の問題に関心を高めてもらおうという狙いだ。
運輸業界の中でも、企業による取り組みの温度差は大きい。SAS簡易検査の普及を目指すNPO法人睡眠健康研究所(東京)の主任研究員三浦仁さんは「鉄道関係はおおむね産業医が常勤していて、熱心にやっている。トラック業界も積極的。バス、タクシー関係はばらつきが大きい」と評する。
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早期発見後の治療にも課題がある。SASの治療に使われるシーパップは、毎晩寝るときに装着するうえ、月1回の外来受診が必要で、患者の意欲が続かないことも多い。
豊橋メイツ睡眠障害治療クリニック院長の小池茂文さんは、企業のSAS検診などで異常が見つかった237人の治療状況について、6月に横浜市で開かれた日本睡眠学会のシンポで報告した。産業医が関与している企業では、治療拒否者が13・5%だったのに対し、産業医が関わっていない企業では68・8%に達したという。
「眠気などの自覚症状には個人差が大きく、治療に納得しない人もいる。通院をやめても、医師には守秘義務があり、勤務先の管理者に連絡することはできない」と小池さん。また、変則勤務による睡眠不足、突発的な居眠りの症状があるナルコレプシーなどの問題が隠れている場合もあり、「産業医がSASの社員教育を行う中で、日中の眠気について啓発していくことが治療につながる」と強調した。
同シンポで、北里大医療衛生学部教授の田ケ谷浩邦さんは、うつ病などの問題を持つ人が治療薬の影響で朝起きられなくなったり、勤務中に居眠りしてしまうケースが多いことを指摘。「精神科医は睡眠の知識が乏しい場合も多く、職場のメンタルヘルス活動と睡眠の医療機関の連携が必要」と訴えた。
【睡眠時無呼吸症候群】
のどや舌の根の筋肉が緩み、寝ている間に上気道をふさいで、数秒から数10秒の呼吸停止が繰り返される状態。眠りが浅くなるため、昼間に激しい眠気に襲われたり、集中力を欠いたりするようになる。高血圧、心臓疾患などの原因にもなる。患者数は、推定200万人といわれ、大半が未治療。診断には、医療機関での1泊検査が必要だが、早期発見のため「パルスオキシメーター」の簡易検査は、自宅で指と腕に器具をはめて寝るだけで判定できる。
中等度以上のSASには、就寝中に鼻に装着したマスクから空気を送り込むシーパップ治療が行われることが多い。
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