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【社会】公認会計士 遠い資格 合格しても実務経験が…

2012/09/03

監査法人採用抑制 … 要件に壁

増える“浪人” … 就職先多様に

 司法試験と並ぶ難関で知られる公認会計士試験に合格しながら、資格が得られないままの人が増えている。試験制度改正で合格者数が増えた一方、資格取得に必要な実務が積める監査法人が景気低迷で採用を抑えているからだ。合格者は公認会計士になれる保証がないまま、さまざまな就職先を選び始めたが、職が見つからない人も多い。

 ◇ ◇ ◇

 「もうちょっと楽に監査法人に入れると思ったのに」。昨年の試験に合格した長野県出身の男性(23)は、監査法人に入れず、4月から名古屋市内の税理士法人で働く。中小企業の税務業務が主な仕事だが、資格取得要件の実務とみなされていないため「実務経験のできるところで働きたい」と漏らす。

 公認会計士の資格取得には合格の前か後に2年以上の実務経験が必要で、上場企業などの決算書類を監査証明する監査法人に就職するのが一般的だ。

 東京都の無職男性(56)は通信関連会社を早期退職し、2007年に合格した。だが年齢が障害となり監査法人に入れず、今も職はない。「試験に通れば誰でも次のステップに進める仕組みを整えてほしい」と訴える。

 日本公認会計士協会によると、職が見つからない人も増え続け、協会が統計を取り始めた09年で109人。12年には8倍以上の917人(6月30日現在)に上った。

 その背景には、06年に改正された試験制度がある。金融庁が監査法人の業務拡大による人手不足解消や、幅広い分野から人材を確保する狙いで受験資格を撤廃するなどして、合格者を10年ほど前の1000人程度から2000~3000人に増やした。

 これに合わせ、合格者のほぼ全員を引き受けていた「新日本」「トーマツ」「あずさ」「あらた」の4大監査法人も大量に採用。06年にはその年の合格者数を上回る数を採った。ところが、08年9月のリーマン・ショック以降、採用数を大幅に減らしている。

 このため、その後は民間企業に就職する人がじわりと増え始めている。金融庁などのアンケートによると、11年には1割近くが民間企業に就職。4割近くが監査法人以外で就職を目指した。就職先は銀行や自動車メーカー、居酒屋チェーン、旅行会社など多岐にわたる。

 民間企業でも、経理や経営企画などに携われば、資格に必要な実務経験とみなされるが、金融庁の広報担当者は「民間企業の人事は会社の事情で決まり、個人的な配慮をしてくれるところは少ない」と指摘する。

 全国展開する大手進学塾に就職し、経理を担当する岐阜県出身の男性(28)は「進学塾で実務を積むケースは私が初めて。実務として認められる保証はないが、大丈夫だと信じたい」と話す。

 日米両国の公認会計士資格を持つ愛知工業大学の岡崎一浩教授(会計学)は「公認会計士は公務員ではないので、自由競争の中で生きるのが本来の姿。合格者たちは監査法人が1番の就職先という認識を変えて職域を広げれば、民間企業も活躍の場になるはず」と話す。

【公認会計士】
 上場企業などの決算書類を株主や投資家に代わり監査して証明するのが主な仕事。監査業務は公認会計士のみ認められている。粉飾決算を未然に防ぐ役目を担い“市場の番人”といわれる。資格を取得すると、無試験で税理士や行政書士として登録できる。短答式試験をパスした最終の論文試験は例年8月にあり、合格率はほぼ1桁台で、15%前後になった年もある。2011年の公認会計士数は約3万人。